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建売秘密基地 中島家


著者の作品は初めて読む。が、本書は正直にいって、うーん、というか。評価しにくい。

いや、この自由さは好き。かつて少年ジャンプで、漫☆画太郎氏の作品を読んだ時の衝撃を思わせるような。漫☆画太郎氏の作風に初めて触れたのは読み切りだったと思う。スクリーントーンの存在を知らないのでは、と思う手書き感100%のタッチ。お世辞にもデッサンが整っているとは思えない人物の造形。些細な対立からケンカがエスカレートしていくストーリー。これがヘタウマなのか、それとも確信犯なのか。当時の私には判断が付かなかった。だが、少年ジャンプの懐の深さが見えたと思う。いまだに記憶に残っているぐらいだから。

本書は平凡な一家が住む建売を豪華な屋敷と交換したいという申し出から始まる。そのアイデアが面白い、と思って読み始めたのだが、ストーリーはだんだん脱線してゆく。宇宙人は地球にくるわ、脈略もない謎の組織は暗躍するわと、いい意味で悪ノリしてる。

私は、本書のような自由な発想の小説はもっと世に受け入れられるべき、と思っている。最近、こういったアイデアのぶっ飛んだ小説にお目にかかれておなかっただけに、本書のような小説は評価したい。

最近は、こういったフィクション系は、漫画が主流になっている。でも、小説にもまだまだこういったアイデアを試す余地はあるはず。小説としての結構も大切だが、あえてそこから踏み外す勇気も必要かも。人物が書けてないとか、矛盾しているとか、いいたい人には好きにいわせておけばいい。私には、本書の書きっぷりは、あえて小説の骨格をはずし、コミカルな方向にとがってみたように見えた。

著者の作風がまだ見えていないので、他の作品も読ませてもらってから評価したい。果たして、著者は小説が分かった上でわざと全身の骨を外したのか。それとも勢いだけで書いたら本書のようになったのか。

もし後者の場合、こういう小説が商業ベースに乗る時点で、まだまだ出版界にも望みが持てるのではないかと思う。スタイルになっても、権威になっても、それはステレオタイプとマンネリズムへの一本道なのだから。小説もどこかで勢いとアナーキーなとがり方が必要だと思うので。

もし前者の場合、著者の持つ度胸は驚くべきだと思う。そしてその熱量もすごいものがあるに違いない。かつて村上龍氏の『昭和歌謡大全集』という小説を読んだが、その時の悪ノリをはるかに超えているのが本書なのだから。そして、誤解を恐れずに言うと、こうした悪ノリは同人誌やコミックの分野にはまだ文化として残されているような気がする。それを小説で再現し、出版した編集者の慧眼も大したものだと思う。

‘2017/06/09-2017/06/10


夢奇譚


今、この入力ページの表紙画像にアイズワイドシャットの原典とあるのをみて、初めてそのことに気付く。なるほど、そう言われればそうだわ。かつて妻と映画館に見に行ったことを思い出す。

物語の進み方や主人公の独白などが19世紀の小説っぽい感じで、今の小説を読み慣れている人には少々まどろっこしいけれど、ふとした諍いからどんどん異常な状況へと自ら足を進めていく主人公の描写が妙に真に迫るところがある。

主人公の奥方の見る夢と主人公がすごした現実とを対立させ、それを今後の生活に活かすという流れ、いかにも分かり易い止揚の構図。哲学が盛んなりし時代の賜物だなぁと思った。

’11/10/29-’11/10/29