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日本でいちばん大切にしたい会社 2


『日本でいちばん大切にしたい会社』に続いて読んだのは、続編である本書だ。

『日本でいちばん大切にしたい会社』にも出ていたが、著者が大切にすべき5人とは以下の方をさしている。

一、社員とその家族
ニ、社外社員(下請け、協力会社の社員)とその家族
三、現在顧客と未来顧客
四、地域住民、とりわけ障害者や高齢者
五、株主・出資者・関係機関

著者はこの順序を重んじる。
通常、企業が優先するのは顧客だ。顧客優先主義が重んじられる。「お客様は神様です」というアレだ。

だが、著者は顧客よりも社員を重んじる。そしてこのように書く。
「自分が所属する会社や組織に不平・不満・不信感をもった社員や、自分が所属する組織に感動や愛社心をもち合わせない社員が、顧客に対して心を込めた接客サービスや、感動的商品の創造提案をすることなどできるはずがないからです。」(18ページ)

この言葉に間違いはない。まさにその通りだと思う。
だが、心底からこの思いを抱き、偽りなく日々の業務にあたっているサラリーマンや経営者が果たしてどれだけいるのだろうか。正直、心許ない。
表向きは自社を愛し、会社に不満はないという振りをしながら仕事をしていないだろうか。

経営者としても同じだ。
私も社員のために経営したいと思っている。実際にその思いを抱いて雇用に踏み切った。
だが、実際に経営者として雇用に踏み切った今、その言行を一致させることの難しさを感じている。
企業とは売上を継続的に上げ続けなければならない。自分一人ならよい。だが、雇用した以上、継続的に給与を支払い続けなければならない。
営業もしながら、検収をいただき続けなければならない。その上、社員には技術の習得を求めなければならない。さまざまなお客様のビジネスの理解も深めてもらう必要もある。さらに、価値観の違いを踏まえてともに会社のために仕事をしなければならない。その難しさに直面しているのが今の私だ。

私は昨年、社員のための経営を継続するためには、まず継続的なサービス・商品の提供が不可欠だと痛感した。
もちろん社員を優先する姿勢は大切だ。だが、それと劣らないほど顧客を重んじ、顧客に支持されるサービス・商品を作らなければ継続的な売り上げは見果てぬ夢だ。

『日本でいちばん大切にしたい会社』に登場した五社は、理念も立派だが、まず会社として継続できる仕組みが成り立っていることを考えたい。
そのためには、まず創業者自身の不断の努力が必要だろう。
創業者が継続できる経営を作った後、ようやく社員に目を向け、社員への還元が必要となってくるのではないかと思った。

だから、理想としては著者の言う通り一、ニ、三の順番が望ましい。だが、一と三の間はほぼ僅差であるべきだと感じている。少なくとも今の段階の弊社にとっては。
もちろん顧客を優先するあまり、社員のことをおろそかにすることはおかしい。
このバランスをとることは本当に難しい。いざ経営者になってみると感じたことだ。

そこで本書だ。

本書には八社が紹介されている。

1、株式会社富士メガネ
戦前に樺太で創業したこちらの眼鏡店は、北海道を中心に、今や東京にも店舗を出しているという。

 その徹底した顧客第一主義は、多くの人々により支持を受けているという。かの松下幸之助や司馬遼太郎もこちらのメガネ店の顧客だったという。

 顧客からの支持を受けるばかりではない。長年の間、世界に散在する難民キャンプを訪れ、そこでメガネを作成して寄贈する活動を行っているという。それで国連やその他の機関からいくつもの表彰を受けているという。

 かけがえのない視力は、失われるとその貴重さが身に染みる。私も眼鏡をかけているからわかる。
この徹底した顧客第一主義と人道的な姿勢は、戦中の苦労を知り、それをうまく伝えているからだろう。とても大切なことだと思う。
この戦中の苦労は富士メガネさんのサイトに掲載されている。

2、医療法人鉄蕉会亀田総合病院
知っている方のお嬢さんがこの病院で看護師をしているそうだ。それ以外にもこちらの病院については多方面から良い話を聞くことがある。
本書に書かれているように、患者さんのためを真摯に思う姿勢は、金満主義や象牙の塔、冷たいといった病院に持たれる一般的な悪しきイメージを変えてくれるに違いない。

 病の苦しみに涙する人にとって、苦しい場所であるはずの病院をこのように信頼できる。おそらくそれは、考えているよりも難しいはずだ。
それは、病院に属する全てのスタッフが同じ理念をいだいてこそだろう。巨大病院の組織の中で激務にもかかわらず疲弊せずに仕事ができる仕組みにも見習う点があるはずだ。

3、株式会社埼玉種畜牧場「サイボクハム」

 埼玉にサイボクハムという牧場がある事は知っていた。まだ行った事はない。
本書によるとサイボクハムは、農業のディズニーランドと言うべき多様な施設がある楽しい場所だそうだ。

 だが、そこに至るまでには、豚の品種改良や経営に対する飽くなき努力があった事を忘れてはならない。そうした努力が、独自の地位を築いたのだろう。
こちらのウェブサイトには創業者の姿勢が載っている。
ようは酪農や種畜の業界のことだけでなく、自分の携わる仕事に対する姿勢の問題だと思う。
私も見習わなければ。

4、株式会社アールエフ

 飲み込める内視鏡付カメラ。フィルム不要のレントゲン。ともに素晴らしく画期的な製品だ。それは、創業者の熱意から開発されたという。
まだとても新しい会社だが、技術力の結晶のような部分で他の会社との差別化に成功し、継続的な経営を続けている。
医療の現場であるからこそ、女性を重んじ、お客様に対して熱意をもって仕事ができる会社なのだろう。

 後進を意欲的に育てる姿勢や、自社で大学院大学を設立すると言う構想など、私も頭に留めておきたい会社だ。

 ウェブサイトもなかなか個性的だ。

5、株式会社樹研工業

 超極小のプラスチック歯車を製造するこちらは、人事制度では大きな魅力を持っている。
入院した社員に亡くなるまでの3年半、給与を払い続けること。社歴にかかわらず年齢順に給与額を設定するなど、とても独創的だ。
定年がないということも特筆すべきだろう。

 とにかく社員を大切にし、投資を惜しまない。
それも製品が継続的に売上のあることが大切だ。そして、作り上げた仕組みを不断の努力で社内に展開しているからだろう。

 その両輪が好循環で回っていることが素晴らしい。
こちらのサイトに樹研工業さんの強みが書かれているが、全ての工程を外注せずに自社で賄っていることもすごいと思える。
目標にしたい会社の一つだ。

6、未来工業株式会社

 こちらの会社は日本で一番休みの多い会社だそうだ。
創業者のお二人が演劇に青春をかけ、実業家のイメージとはかけ離れているのもいい。

 タイムレコーダーやユニフォームもなく、残業すると罰金を取られるなど、あらゆる面で素晴らしい。自由を求めた演劇人らしい発想だ。

 本社を大きくせず、コミュニケーションを活発にするためコピー機を増やさず、その並んでいる列での交流を狙う。

 そうしたユニークな社風が、お二人の創業者が退いた後も引き継がれていることも素晴らしいと思う。出入り業者の営業担当者をスカウトされたということだが、素晴らしいと思える。
昔の私がこうした会社を知っていたら、もっと違った人生が歩めたのではないかとすら思えた。

7、ネッツトヨタ南国株式会社

 いわゆるカーディーラーは全国のあちこちにある。
あまり変わりばえがしないのかな、と失礼ながら思っていた。だが、この会社はユニークな研修制度を持っているようだ。

 四国と言えばお遍路が有名だ。そこを障碍者と二人でペアを組み、八十八カ所を案内して回るというのだ。

 ほかにも社内の制度や経営理念など、カーディーラーという失礼だがありきたりな業態であっても色を出せることが素晴らしいと思った。

8、株式会社沖縄教育出版

 朝礼がとにかく長いと著者も書いている。
だが、そこではあらゆる社員のためのイベントがあるという。

 私もかつて出版会社にいたことがある。社訓を読んで絶叫し、ボウズだと丸坊主に刈られる会社だったが。

 こちらの創業者もモーレツ社員として働いており、ある日自らの人望のなさに気づき、やり直したという経歴を持っているようだ。
やはり弱みを知った人間は強くなれる。

 私もやり直そうと思えた。

‘2020/08/02-2020/08/02


手術がわかる本


本書は、紹介してもらわなければ一生読まずに終わったかもしれない。人体に施す代表的な73の手術をイラスト付きで紹介した本。貸してくださったのはマニュアル作りのプロフェッショナル、情報親方ことPolaris Infotech社の東野さんだ。

なぜマニュアル作りのプロがこの本を勧めてくださったのか。それはマニュアル作りの要諦が本書にこめられているからに違いない。手術とは理論と実践が高度に求められる作業だ。症例を理論と経験から判断し、患部に対して的確に術を施す。どちらかが欠ければ手術は成功しないはずだ。そして、手術が成功するためには、医療を施す側の力だけでなく、手術を受ける側の努力も求められる。患者が自らに施される手術を理解し、事前の準備に最大限の協力を行う。それが手術の効果を高めることは素人の私でもわかる。つまり、患者が手術を理解するためのマニュアルが求められているのだ。本書こそは、そのための一冊だ。

本書が想定する読者は医療に携わる人ではない。私のように医学に縁のない者でもわかるように書かれている。医療の初歩的な知識を持っていない、つまり、専門家だから知っているはず、という暗黙の了解が通用しない。また、私のような一般の読者は体の組織を知らない。名前も知らなければ、位置の関係にも無知だ。手術器具もそう。本書に載っている器具のほとんどは、名称どころか機能や形についても本書を読むまで知らなかったものばかり。各病気の症状についての知識はもちろんだ。

手術をきちんと語ろうと思えばどこまでも専門の記述を盛り込める。だが、本書は医療関係者向けではなく、一般向けに書かれた本だ。そのバランスが難しい。だからこそ、本書は手術を受ける患者にとって有益な1冊なのだ。そしてマニュアルとしても手本となる。なぜなら、マニュアルとは本来、お客様のためにあるべきだからだ。

これは、ソフトウエアのマニュアルを考えてみるとわかりやすい。システムソフトウエアを使うのは一般的にユーザー。ところがそのシステムを作るのはシステムエンジニアやプログラマーといった技術者だ。システムの使用マニュアルは普通、ユーザー向けに提供される。もちろん、技術者向けのマニュアルもある。もっとも内部向けには仕様書と呼ばれるが。家電製品も同じ。製品に同梱されるマニュアルは、それを使う購入者のためのものであり、工場の従業員や設計者が見る仕様書は別にある。

そう考えると、本書の持つ特質がよく理解できる。医師や看護師向けのマニュアルとは一線を画し、本書はこれから不安を抱え、手術を受けるための患者のためのもの、と。

だから本書にはイラストがふんだんに使われる。イラストがなければ患者には全く意味が伝わらない。そして、使われるイラストも患者がシンプルに理解できるべき。厳密さも精細さも不要。患者にとって必要なのは、自分の体のどこが切り刻まれ、どこが切り取られ、どこが貼り直され、どこが縫い合わされるかをわかりやすく教えてくれるイラスト。位置と形状と名称。これらが患者の脳にすんなりと飛び込めば、イラストとしては十分なのだ。本書にふんだんに使われているイラストがその目的に沿って描かれていることは明らかだ。体の線が単純な線で表されている。そして平面的だ。

一方で、実際に施術する側にとってみれば、本書のイラストは全く情報量が足りない。手術前に検討すべきことは複雑だ。レントゲンの画像からどこに病巣があるかを読み取らなければならない
。手術前の事前のブリーフィングではどこを切り取り、どうつなぎ合わせるかの施術内容を打ちあわせる。より詳しいCT/MRI画像を解読するスキルや、実際に切開した患部から即座に判断するスキルを磨くには、本書のイラストでは簡潔すぎることは言うまでもない。

イラストだけではない。記述もそうだ。一概に手術を語ることがどれだけ難しいかは、私のような素人でもわかる。病気と言っても人によって症状も違えば、処方される薬も違う。施術の方法も医師によって変わるだろう。

そして、本書に描かれる疾患の要素や、処置の内容、処方される薬などは、さらに詳しい経験や仕様書をもとに判断されるはず。そのような細かく専門的な記述は本書には不要なのだ。本書には代表的な処置と代表的な処方薬だけが描かれる。それで良いのだ。詳しく描くことで、患者は安心するどころか、逆に混乱し不安となるはずだから。

ただ、本書はいわゆるマニュアルではない。一般的な製品のマニュアルには製造物責任法(PL法)の対応が必要だ。裁判で不利な証拠とされないように、やりすぎとも思えるぐらいの冗長で詳細な記載が求められる。本書はあくまでも手術を解説した本なので、そうした冗長な記述はない。

あくまでも本書は患者の不安を取り除くための本であり、わかりやすく記すことに主眼が置かれている。だからこそ、マニュアルのプロがお勧めする本なのだろう。

本書を読むことで読者は代表的な73の手術を詳細に理解できる。私たちの体はどうなっていて、お互いの器官はどう機能しあっているのか。どのような疾患にはどう対処すべきなのか、体の不調はどう処置すれば適切なのか。それらは人類の叡智の結晶だ。本書はマニュアルの見本としても素晴らしいが、人体を理解するためのエッセンスとしても読める。私たちは普段、生き物であるとの忘れがちな事実。本書はそれを思い出すきっかけにもなる。

本書に載っている施術の多さは、人体がそれだ多くのリスクを負っている事の証だ。73種類の中には、副鼻腔の洗浄や抜歯、骨折や虫垂炎、出産に関する手術といったよくある手術も含まれている。かと思えば、堕胎手術や包茎手術、心臓へのペースメーカー埋め込みや四肢切断、性転換手術といったあまり出会う確率が少ないと思われるものもある。ところが、性別の差を除けばどれもが、私たちの身に起こりうる事態だ。

実際、読者のうちの誰が自分の四肢が切断されることを想定しながら生きているだろう。出産という人間にとって欠かせない営みの詳しい処置を、どれだけの男性が詳しく知っているだろう。普段、私たちが目や耳や口や鼻や皮膚を通して頼っている五感もそう。そうした感覚器官を移植したり取り換えたりする施術がどれだけ微妙でセンシティブなのか、実感している人はどれだけいるだろうか。

私たちが実に微妙な身体のバランスで出来上がっているということを、本書ほど思い知らせてくれる書物はないと思う。

人体図鑑は世にたくさんある。私の実家にも家庭の医学があった。ところが本書に載っているような手術の一連の流れを、網羅的に、かつ、簡潔にわかりやすく伝えてくれる本書はなかなかみない。実は本書は、家庭の医学のように一家に一冊、必ず備えるべき書物なのかもしれない。教えてくださった情報親方に感謝しなければ。

‘2018/08/22-2018/09/03