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ビジネスモデルの教科書 経営戦略を見る目と考える力を養う


独立してから13年半。法人化してから五期目を迎えるというのに、私はビジネスが不得手だ。少なくとも自分ではそう思っている。

多分それは、私自身がなんでも独りで学んできたからだろう。特定の師匠や先生、メンターを持たず、本を頼りに自分の力で学んできた。言い方を変えれば、ビジネスの中で出会ってきたあらゆる人から学び、教わり、盗み取ってきた。
いくら私が大学で商学部に所属し、マーケティングや経営を学んだとはいえ、それはあくまでも机上の理屈。実学ではない。
私がそうしたビジネスの知識や仕組みを学んだのは、自ら個人の事業に乗り出していく中で試行錯誤しながらだ。
その生き方はかっこいいのかもしれないが、正統に学んだ方に比べるとかなりの遠回りをしているはずだ。
未熟であるがゆえに、今までにたくさんの失敗をしてきたし、この人には足を向けて寝られないという人も何人かいる。

そういう失敗を振りかえる時、私の中の悔いが頭をもたげる。
弟子としてきちんと学んでおきたかったと思うこともある。

それは私の中でビジネスプロセスについての知識が弱いリスクとして影を落としている。
ビジネスの中で試行錯誤しながらつかんだ知識は固いが、未経験のビジネスモデルとなるとはなはだ弱い。
今までにしでかした数多くの失敗は、私にとって糧となっているとはいえ、失敗したことでご迷惑をかけてきたこともまた事実。

一方で、今まで自分の力だけでやってきた自負もある。
失敗を反省し、ビジネスの現場で犯した失敗は、反省し、学びに変えることで私の中に活きた知識として身についているはずだ。

だがここら辺で一度ビジネスモデルについてきちんと学んでおきたい、そろそろ実学の知識を身につけておきたい。そこで本書を手に取った。

弊社の場合、情報処理業界をベースに活動している。
情報処理業界もビジネスモデルに沿って営まれている。そこに慣習もある。だが、それは他の業界では通用しない。情報処理業界に特化したビジネスモデルに過ぎないはずだ。
だから本書に挙げられているようなさまざまなビジネスモデルについて、私の知識は薄い。
そしておそらく今後も弊社がITを主戦場にしている限り、その他のビジネスモデルを自在に操ることはないはずだ。

ただ、弊社はシステム構築を武器にして、あらゆる業界の顧客に対してシステムの提案をする事がミッションだ。という事は顧客が採用するビジネスモデルについても知っておかねばならない。

そこに結論が行き着いた以上、他のビジネスモデルについて無知である事は許されない。だから、本書のような入門書は読んでおかねばなるまい。

実際、紹介されているビジネスモデルは私の知っているあらゆるビジネスモデルを網羅していると思う。

結局、経済活動とはある物品や見えないけれど人のためになるサービスを扱う商いだ。原材料から加工し、次のお客様に商品やサービスとして提供する。
原材料から次の加工へのプロセスは、携わる人が身に付けたスキルによってどうにでも変わる。
消費者側は、加工された商品や物件やサービスを評価し購入する。
それは、その主体者が個人であろうと法人であろうと変わらない。

しかもそのプロセスにおいては、生産者と加工者と消費者と言うプレイヤーの構造であることも多い。そこが定まっている限り、ビジネスモデルの種類がそうそう増えることはないはずだ。

その流通経路は、時代の移り変わりによって左右される。
かつては行商人が足を使って商品を流通させていた。それが馬車になり、帆船になり、鉄道となり、トラックになり。今やインターネットの中で商談が完結し、ドローンが発送する時代になっている。
間に商品を集積する市場があったり、中間に関与する企業があったり、そうした中間物を省こうとネットワークに頼ろうとするビジネスがあったり。

それらが網羅されているのが本書だ。以下に引用した目次の通り、あらゆるビジネスが網羅されている。
各ビジネスモデルは整理され、それぞれの特徴が簡潔にまとめられている。

第二部では、実際のセブン-イレブンやYKKといった有名企業のビジネスモデルが紹介され、とてもイメージしやすくなっている。

こうしたモデルをよく理解することで、よりビジネスが進展することだろう。私の場合はとてもよく理解ができた。末尾に目次を引用しておく。
全体的に見てもよくまとまっており、お勧めの一冊だ。

序章
ビジネスモデル概論と本書の読み方

第一部 事業レベル編
第1章 顧客セグメント・顧客関係のビジネスモデル
  地域ドミナント
  クリームスキミング
  特定市場の支配
  グローバル化
  顧客ライフサイクルマネジメント
  顧客の購買代理
  プラットフォーム

第2章 提供価値のビジネスモデル
  ソリューション
  同質化
  アンバンドリング
  デファクトスタンダード
  ブルーオーシャン

第3章 価格/収入構造のビジネスモデル
  レーザーブレード
  フリー
  敵の収益源の破壊

第4章 ビジネスシステムのビジネスモデル
  チャネル関係性の利用
  ダイレクト
  サプライチェーン種別の変更
  機能外販
  リソース先制
  マクドナルド化
  提携先のレバレッジ
  強者連合

第5章 事業レベルのビジネスモデルのまとめ

第1部 コーポレートレベル編
第6章 コーポレートレベルのビジネスモデル集

‘2018/11/29-2018/12/4


中庭の出来事


意欲的な内容である。その前衛的な内容に眩惑され、引き込まれる。

本書は作中作が幾重にも続く構成になっている。とても把握できないくらいに。その階層の数たるや、十層は下らないのではないか。しかも、それぞれの一章一章があるホテルの中庭で起こった事件を取り上げている。同じような情景が、少し視点や視覚、語り手の意識を替えて執拗に反復される。読者が今の立ち位置を把握しながら読み進めるのは至難の業といえる。油断するとすぐに物語の中で迷子になってしまう。

その構成からは、折り紙の入れ子箱が連想される。あるいはロシアの民俗人形として知られるマトリョーシカを。それらは、ある形の立体の内部に同じ形の立体が、その中にはまた同じ形の立体・・・と幾重にも連なっている。それぞれの箱や人形が紙や木でできている場合、内部は、外に対しては閉じた形になっている。持ち上げられて初めて底が開き、その中に抱えていた別の箱や人形が現れる。持ち上げられるまでは閉じた作りになっていて、その中から外を見ることはできない。

しかし、本書の場合、同じ入れ子であってもさらに複雑な構成となっている。入れ子の内壁から、外を見透かすことが出来る作りになっているのだ。自らを覆っていた箱の、さらにその外側の箱のそのまた外側の箱まで、延々と内側から見ることができる。これを本書の構造に当てはめてみると、入れ子になった一章の中から、自らを覆っていた別の章が透けてみえる。さらに別の章は、それを覆う別の章の内容をわずかに透過する。それぞれの章がレストランの中庭で起こった事件を描く。中庭の情景が似た様な視点と角度で描かれ、それが幾重にも透過して重なりあう。重なるだけではなく、そこには本を読み進めた読者の移ろいやすい記憶に歪まされたそれぞれの章の中庭の光景が被さる。その章を覆っていた別の章の情景が素直に映らず、複層のそれぞれの章が歪み、透かされ、凝縮され読者の眼前に迫る仕掛けとなっている。読者の記憶の歪みが増幅され、次第に読者は自分の立ち位置を見失う。

加えて、本書の各章は自分を覆っていたのがどの章か分からないように注意深く書かれている。つまり本の一つ前の章が上の層の章とは限らない。章と章の関係が一対一なのか、一対複なのかすら明かされず、読者はますます立ち位置を見失うばかりである。

救いは、それぞれの章の中は、人称や時制、視点など一貫していることである。つまり、章と章の繋がりを把握できれば、本書の構造は把握できる。

とはいえ、それは簡単ではない。十層以上に積み重なった構造を解きほぐすのは。

そして、このようなこんがらがった物語であっても、著者の筆は中庭の物語を終わらせにかかる。立体図形を解体するための展開図は用意せずに。それどころか、章と章の関係すら示さずに。読者は置き去りにされたように感ずるだろう。割りきれない思いを引きずるだろう。

本書に答えはない。

最後に拡げた風呂敷がきれいに畳まれたり、すべての謎が快刀乱麻を断つがごとく解決されたり、主人公の人生に確固たる指針が示されたり。そんな大団円とは無縁の位置に本書はいる。

著者にとって覚悟のいる書き方である。しかし著者は本書に世に問うた。その意欲と覚悟、そして破綻させずに物語を紡ぎきった手腕には敬服の念すら覚える。

かつて、ラテンアメリカ文学が脚光を浴びた。ガルシア・マルケス、フリオ・コルタサル、マリオ・バルガス・リョサを初めとした各氏。ホセ・ドノソによる「夜のみだらな鳥」という複雑極まりない一冊もある。我が国にも筒井康隆という巨匠や、円城塔といった書き手がいる。いずれも私の敬愛する作家たちである。本書もまた、そういった前衛的な諸作の中で論ぜられてもよいのではないか。そんなことを思った。

‘2014/9/27-2014/10/3