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図解明解 廃棄物処理の正しいルールと実務がわかる本


本書を購入した理由は、仕事で必要となったからだ。
廃棄物処理の一連の手続きをクラウド・システムで作る仕事で必要となった。

廃棄物処理は、扱う対象が破壊され、解体されている。また、複数の種類の廃棄物が混在していることもある。つまり、デジタルとはそぐわない性質を持っている。だから、業界全体でIT化がなかなか進んでいない。
逆に言うとこれからIT化が求められる業界でもある。

世の中のほとんどの商売は、サービスの提供元が顧客に商品を提供し、その対価として金銭をもらう。ところが廃棄物処理業に関してはそれとは逆に動く。
処分すべき品を顧客から受け取り、その処分料金を顧客から受け取る。つまり、通常の商いの場合であれば、サービスと金銭が逆の向きに動くのに対し、廃棄物処理の場合はサービスと金銭が同じ向きに動く。とても特殊だ。静脈物流と言う言い方もするようだ。
そのため、通常の商慣習に慣れた頭で考えると勝手が違うことが多い。

もう一つ、気を付けておくべきことがある。それは、提供されたサービスの行方が顧客には分からないことだ。
通常のサービスであれば顧客の手元にサービスの結果が残る。食品、飲食、モノ、ソフトウエアなど。だから、何かあれば顧客はサービスの提供元に文句が言える。提供されたサービスが気にいらなければ、今後は利用しないとの選択も取れる。
だが廃棄物処理は、サービスの動きが通常の商売とは逆だ。そのため、顧客は提供されたサービスの結果を確認することが難しい。
例えばだが、顧客に黙って処分すべき義務を負った業者が適切ではない処分をすることも可能だ。例えば不法投棄のように。実際にそう言う事例が頻発したためだろう、業界としてそのような事態を防ぐ仕組みが運用されている。

また、業者間で適切な処理がなされたかを確認するためのマニフェスト伝票がある。それは、対象の廃棄物がどのように次の処理工程に進んだかを報告するためのものだ。この結果をもとに自治体に対してもきちんと処分したという結果を報告する義務がある。
通常の商いであれば、受注伝票、売上伝票、仕入伝票、発注伝票を用いて日常の取引が遂行される。また、納品書や領収書、請求書といった商流書類が取り交わされる。ただし、それらは常に一対一の関係だ。帳票を出す側と受け取る側の。
廃棄物処理においては、モノを運ぶ運搬業者、中間貯蔵業者、中間処理業者、最終処分業者にもマニフェストの記載義務がある。つまり、一対一の関係ではない。
これによって、廃棄物がきちんと適切な方法で処分されたかを業者間で確認し合うのだ。
これらの業者はそれぞれの自治体からどのような廃棄物処理が可能かを許可されている。だから、許可されていない廃棄物は扱えないし、許可されていない方法で処分することも許されない。

もう一つ、大切なことがある。それは、廃棄物を出した当事者である排出事業者は、その廃棄物が最終的にどう処理されたのを適切に管理しなければならないことだ。
処理業者や運搬業者に渡したらそれで終わりではない。これはとても重要なことだから覚えておく必要がある。排出事業者は最終的に廃棄物がどう処理されたかをきちんと把握し、管理しておく必要がある。そのためにも排出事業者は定期的に処理業者の事業所に視察・検査に赴き、正しく適切に廃棄物が処分されているかを自分の目で確認・監督しなければならない。
だからこそマニフェスト伝票の仕組みは不可欠なのだ。
マニフェスト伝票はその結果をきちんと残すためにも作成が義務付けられている。マニフェスト伝票には紙の形式以外にも電子マニフェストも可能だ。どちらの場合もシステムを構築する際は適切に出力することは当たり前だ。

廃棄物処理に当たっては、対象となる廃棄物の種類とその処理方法を知っておかねばならない。また、適切な方法で処分することを認められた業者に対し、適切な内容の契約を締結する必要がある。ここまで準備してようやく、日常のマニフェスト伝票を取り交わしての処理業務を行うことができる。
もちろん、先に挙げたような通常の商流とは違う動きをすることと、社会的な責任が課せられる業界であるということを強く覚えておかなければならない。

その上で物理的な塊である廃棄物をデジタルの世界で管理する必要がある。それには、システム構築の知識以外にも独自のノウハウが必要となる。
上にも書いた通り、普通の商慣習の知識だけではとてもシステム構築はおぼつかない。
お客様よりkintoneを用いて産業廃棄物業界に向け、協力してソリューションを作り上げたいというご依頼を受けた。弊社では現在、いくつかの案件を並行で行っている。
そのための知識が必要だと思い、本書を購入した。

本書の著者は二人の行政書士の手による。二人とも行政書士なのは、それだけ廃棄物処理における報告や管理のウェイトの重さを表している。
本書には廃棄物の処理方法の実態についての化学知識はほとんど登場しない。
廃棄物の処理に関する化学知識よりも、実務上では契約や報告の仕事のほうが求められるということだろう。

本書は、まず行政処分を受けた業者の事例を挙げている。廃棄物処理を適切な方法で処分しないと自治体からの認可が取り消される。すると、該当する仕事が受けられなくなる。これは会社にとっては由々しき事態だ。死活にも関わってくる。

まず、法律遵守とコンプライアンスの意識を本書は徹底的に伝える。その上で、先に書いたように廃棄物の種類と処分方法について解説する。その中で運搬業者や処分業者、中間処分業者、最終処分業者の違いが説明される。最後はマニフェストなどの事務的な手続きに触れていく。

個人的には、廃棄物の処理が実際のどういうプロセスで進むのかに興味がある。なぜなら、私たちは自らが出したゴミがどのような形に変わっていくのか皆目見当がつかないからだ。残念ながら、本書ではその辺には詳しく触れない。
例えば、生ごみであれば焼却処理を行うのは分かる。だが、瓦礫などのコンクリートはどのように処分されるのか。強酸・強アルカリはどのように無害にされるのか。それらはどのような経路をたどって処理されるのか。

ただ、本書を読んでいると、化学処理のプロセスよりも報告のプロセスのほうが複雑だ。その複雑さに武者震いを覚えた。もちろん、それはチャンスでもある。
本書を読んでから、実際にシステム構築の作業に本腰を入れた。おかげさまで一社のお客様ではめどがついた。もう一社も順調に構築が進んでいる。
構築の中では、私の知識が不足していたため、手間取ったこともあった。だが、本書を読んでいなければもっとピントはずれの構築を行っていただろう。そもそもうまくいかなかったことは間違いない。
おそらく今後も廃棄物業界のクラウド・システムには携わっていくはずだと思っている。

廃棄物処理業界のシステム構築の可能性は広い。それと同時に、本書のような入門書の役割をより強く感じる。
本書は、廃棄物処理業界に携わる人にとっては必読のはずだ。

‘2020/06/04-2020/06/07


第6の波 環境・資源ビジネス革命と次なる大市場


このままの成長路線で人類が発展し続けていくという意見を疑いなく言える人はよもやいないと思うけれど、ではどうすれば成長と地球環境の保全を両立させられるかという問いに答えられる人も殆どいないと思う。

そんな喫緊の問いに答えてくれる本がこれ。決して回顧や縮小の論理に逃げることなく、人類はもはや過去の非文明の生活に戻ることはできないという現実を見据えた上で論を立てている。今の経済制度が成長によるさらなる投資の連鎖で組み上げられており、投資を受ける上で資源効率性という原価管理と、廃棄物というコスト削減を成し遂げた企業や組織こそが投資を受け、生き残ってゆくという市場経済の原理に則っているため、非常に現実的な提言となっている。

そういった企業が生き残ってゆく時代を経済の新潮流(第6の波)と名付け、すでに芽生えている種々のエコビジネスや取り組みの紹介に多数を割いている。地球温暖化や環境原理主義のような根拠のあいまいな環境論に堕することなく、資源効率性という原価管理と、廃棄物というコスト削減の観点で紹介される各事例には説得力がある。水や空気、土などの原価意識の低いものにも値が発生する新潮流では、それらをうまく管理できなければ淘汰されるという部分、私にとっては無自覚だったため印象に残った。

第6の波を生き残る方策として6つのキーワードが提言されており、「廃棄物はチャンスである」「商品ではなくサービスを売る「シェアリング」時代」「デジタル界と自然界は融合しつつある」「原子は地元に、ビットは世界に」「迷ったら自然を見よ」のそれぞれには今後の日本が生き残る英知が示されているように思う。もちろん私個人にも。

’11/10/31-’11/11/02