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ルームメイト


友人に借りた本書。本屋や図書館でも著者の名が目に留まることがなかった。友人に借りなければ或いは読むこともなかったかもしれない本書。

しかし、しかし。である。これが面白かった。

本書で凝らされている趣向は、一言でいえば多重人格ものである。ありがちなプロットに、少し生硬に思える文体。全く著者についての情報がなく、少し先入観を抱いていたのかもしれない。冒頭からの展開もなんとなく結末を予感させるような感じで、失礼ながら少々醒めた目で読み進めていた。

ところが、ところが少しずつ物語にヒネリが生まれる。当初は偶然からルームメイトとなった主人公のヒロインと謎のルームメイト。ルームメイトの二重三重生活の謎から、彼女の死んだ兄、偶然から知り合った青年。そして彼女。

最初の生硬な文章はわざとか、と思えるほど、中盤辺りから物語に引き込まれる。実は著者の術中に嵌っていたのでは、と思えるほど、文体が気にならなくなった。

エピローグ4本を挟み、3章からなる本書。最後のエピローグの前に、わざわざ文庫版後書きで、エピローグを読まなくてもよいとの著者からのメッセージが添えてある。

私はもちろん読んだのだが、そのエピローグが無くても、結末としては落ちるところに落ちているし、最後のエピローグでさらにひねりが加わり、ホラーの香りが漂う結末に。

まだまだ私の知らぬ作家が、面白い小説を書いていることに、気づかされた。先入観を持って読み始めた自分を恥じながら、失礼を詫びなければ。

’14/07/12-‘14/07/15