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グランド・イリュージョン 見破られたトリック


2016年も残り四ヶ月になり、ようやくの初観劇で観たのが本作である。観劇活動が低調な2016年を象徴するかのように、本作は鉄則から外れた形で観てしまった。鉄則というのは、必ずシリーズ物は第一作から観始めること。それは私にとって全てのメディアを通しての鉄則。本も映画も舞台も含めて。なのに、本作の前作となるグランド・イリュージョンを観ることなく、パート2である本作から観てしまった。

これは私にとっては忸怩たるところだ。もちろん、制作側はパート2からでも楽しんでもらえるように作っているはず。それは当然だ。だがそうは言ってもシリーズ物で毎回物語の背景の説明はしない。むしろ省くのが定石だ。前作を観た方にとってみれば、背景説明は冗長でしかない。それは映画そのものへも悪印象を与えかねない。なので、前作を観たという前提で製作者は続編のシナリオを書く。本作にも当然のように前作を観た方にしか分からない描写があった。私としてはもどかしい思いを持ちながら本作を観た。それはもちろん制作側の非ではなく、前作を観ずに本作に臨んだ私の責任なのだが。

だが、前作を観ていない私にとって救われることがたった一つだけある。それは、本作と前作を比較せずに楽しめる事だ。一緒に観た妻は前作を観たという。妻によれば、本作は前作で受けたほどの新鮮味はなかったとか。ただ、前作に比べてアクションシーンが増えた印象があったという。アクションシーンについては、私にも少し猥雑な印象をもった。それは、本作の舞台の多くがマカオだったことも関係しているのかもしれない。

猥雑な都市と洗練されたテクノロジー空間の対比。本作はその点が鮮やかだったように思う。一粒の塵すら存在し得ない計算された空間が、エネルギー溢れるカオスなマカオに潜む。そんな本作の設定は、もちろんジョン・M・チュウ監督が意図したことに違いない。本作はアクションシーンの多くがマカオで繰り広げられる。その一方でフォー・ホースメンによる精妙なカードの手妻捌きはIT空間で繰り広げられる。最後のグランド・イリュージョンすらもマカオではなくロンドンという洗練された都市で行われる。その対比があまりに分かりやすいのが、少しだが本作の欠点なのかもしれない。

また、フォー・ホースメンの5人(なぜ5人なのにフォーなのかは知らない)たちの演技は、スタイリッシュなあまり、まとまりすぎていたキライがあった。なんというか、タメがないというか、遊びがないというのか。それは主人公が五人にばらけてしまったため、私の視点が散ってしまったことにも原因があるのかもしれない。または、トリックにだまされまいとする私の気負いのせいかもしれない。ディランと父の挿話や、敵と味方に別れたマッキニー兄弟の掛け合い、ジャックとルーラの恋の芽生えなど、よく見れば面白いシーンがあるのに、そこにスッと入り込みきれなかったのが惜しい。もう一度本作は観てみなければと思っている。

一方で、敵方の出演者はいずれも個性派揃い。とくにダニエル・ラドクリフはハリー・ポッターを演ずる以外の彼をスクリーンで見るのは初めて。とても興味を持っていたが、残念ながら小粒な印象が拭えなかった。顎鬚を生やしていたとはいえ、彼の童顔がそう思わせたのだとしたら、気の毒だ。でも、演技面では悪役になるにはもっとエキセントリックな感じを出したほうがよいように思える。それぐらい敵役としては少し印象が薄かった。とはいえ、敵役でバックにつく二人が名優中の名優だったからそう思ったのかもしれない。マイケル・ケインにモーガン・フリーマン。この二人の重厚感溢れる演技はさすがと思わされるものがあった。この二人の存在がなければ、派手な展開の続く映画自体の印象も上滑りしてしまい、後に残らなかったのではないかとすら思えたから。でも、ダニエル・ラドクリフには子役出身の役者として是非成功してほしいと思っている。

また、私が気になったのは、主要キャストからは漏れてしまっているが、マカオの世界最高のマジックショップオーナーの老婆。途中まで全く英語が使えず、広東語で話していたのが、実は英語がぺらぺらという役柄。それは
フォー・ホースメンを見極めていたという設定。それがすごく自然で、素晴らしいと思った。調べたところ、ツァイ・チンという中華民国出身の女優さんのようだが、この方を知ったのも本作の収穫だ。お見事。

しかし結局のところ、本作の魅力とはマジック描写のお見事さに尽きる。作中のいたるところで見られる本場のテクニックには魅了された。これらマジックはVFXなどの視覚効果ではなく、実際に我々が体験できるマジックなのだという。つまり人はいかにしてだまされやすいか、という実証でもある。私は手品に騙され易い人と自認しているからそれほどのショックはないが、大方の人もやはり本作に仕掛けられたマジックには騙されるのではないだろうか。「あなたは必ず、爽快にダマされる。」というコピーには偽りはないといえる。

また、本作は結末がいい。本筋のトリックのネタはきれいに明かすが、ストーリーとして最後になぞを残す演出が余韻を残すのだ。本作を観た誰もが、カーテンの後ろには一体何が・・・?という思いを抱くことだろう。聞くところによると、本作は続編の制作が進行中なのだとか。私もそれまで第一作を観、可能なら本作を再度観、備えたいと思う。

‘2016/9/13 イオンシネマ新百合ヶ丘