Articles tagged with: ビール

今飲むべき最高のクラフトビール100


本書の編者であり、山仲間、飲み仲間である小宮さんから本書を献本いただいた。

今、クラフトビールが盛り上がっている。
マイクロブルワリーが続々と生まれ、世界中で多種多様なビールが世の飲兵衛を迷わせている。

この盛り上がりは本当に嬉しい。
一度はブームが去って寒々しい状態だった地ビールの状況を知っているだけに。

かつて、地ビールが初めて解禁された時期、私はまだ20代前半で自由を謳歌する身だった。そのため、あちこちに出かけてはクラフトビールを飲んでいた。
私が上京して忙しくなったのと期を同じくして地ビールのブームは去り、いくつものお店が閉店した。

それがどうだろう。今のクラフトビールの盛り上がりは。かつての地ビールブームのそれを凌駕している。それどころか、ビールの種類は百花斉放。ブルワリーも各地に開店し、外観も内装も工夫が凝らされている。その地域の風土や産物に合わせて。
クラフトビールはすっかり世の中に根付いたように思う。
一過性の盛り上がりに終わっていないことが本当に嬉しい。

今のクラフトビールが盛り上がり始めた頃、私は高校時代からの親友とJR難波近くで催されていたクラフトビールフェスに行き、そこで彼からIPAのおいしさを教わった。IPAのおいしさに衝撃を受けたその日こそ、私がクラフトビールを本当に好きになった日だといえる。
単なる酒飲みとしてだけでなく、ビールの味や文化も含めて愛好するようになり、各地の旅行での楽しみにビール・ツーリズムが加わったのもそのころからだったように思う。

とはいえ、クラフトビールの盛り上がりはまだまだこれからだ。その証しに、コンビニに行っても必ずクラフトビールが買えるわけではない。コンビニのビールの品ぞろえは大手四社の製品が棚のほとんどを占めている。
もちろん、お店によってはクラフトビールが売られている。が、その銘柄はクラフトビール界である程度の知名度を手にしたものだけだ。

世の中には美味しいビールが皆さんに飲まれる時を待っているにもかかわらず、それらをみなさんが知る機会はそう多くない。

そのためには、全国のあちこちで作られているクラフトビールに触れる機会が必要だ。
私が訪れたようなフェスタの形で行われているビール祭りはその良い機会だろう。

そういうフェスを訪れるとさまざまなビールに出会える。そして飲み比べられる。
新型コロナウイルスは四年近く、私たちからそうした機会を奪った。
だが、そういうフェスに訪れなくても、ビールの奥深さを知る手段は用意されている。
例えば、本書のようなガイド本だ。

本書を手にほんの少しの想像を働かせれば、家にいながらにしてビールの多彩な世界に触れられる。
興味を持てば、そのビールをネット通販で取り寄せることさえできる。
旅をせず、諸国で醸されたビールが飲める。今はそういううれしい時代になっている。

本書は、クラフトビール界隈の話題をかっさらった新進気鋭のブルワリーや、クラフトビールの雄とも言うべきブルワリーも取り上げられている。読んでいるだけで楽しくなることは間違いない。

本書のクラフトビールの説明は、写真付きだ。かつ、味の説明やブルワリーの説明も載っている。一銘柄あたり、約三百文字。
簡潔にして必要な内容が押さえられている。

それだけではなく、受賞歴や、アルコール度数、原材料や製造地、製造者の情報も載っている。

しようと思えば、もう少し詳細に説明も書けるだろう。製法のこだわりも載せられるだろう。
だが、本書はそれをしない。

なぜなら本書はハンディで持ち歩けるガイド本だからだ。
本書を片手に旅先でブルワリーをふらりと訪れる。出張するビジネスマンや旅人にとっては、くだくだしい説明はかえってかさばってしまう。本書は手軽に持っていけることを優先し、簡潔な説明にとどめている。

今、サケ・ツーリズムやアルコール・ツーリズムが盛んだ。私も20代頃から蒸留社巡りを楽しみ、ブルワリーも各地の名店を巡ってきた。

地酒や地ウイスキーのように、クラフトビールはその地を訪れる旅人を引きつける。地域おこしの主役のコンテンツになりうる。
実際、私は蒸留所だけが目当ての旅をしたことが何度もある。
私がレアな存在なのではない。同じようにお酒を目的とした旅を楽しむ人は多いはずだ。

なんと言っても、今は多様性の時代なのだから。

ツーリストにとって、ハンディサイズで持ちやすい本書のようなガイドは、ビールが好きな旅人やビジネスマンの助けになると思う。

もちろん、ネットにも似たようなガイドサイトはあるだろう。
だが、残念ながら銘柄単位ではなかったり、場所別や会社別、ブルワリー別になっていなかったり、使い勝手はまちまちだ。

その点、本書は編集方針が明確であり、地域別や会社別ではない。
淡色・中濃色エール
IPA
濃色エール
小麦エール
ラガー
フルーツ、スパイスなど
の六つのカテゴリーに分けてくれていて、好みに応じて好きな銘柄に思いをはせることが可能なのだ。

本書は他にもコラムやクラフトビールの歴史にも触れている。また、全国のビールイベントの紹介も。
その中には私が友人にIPAを教えてもらった大阪のCraft Beer Liveも。

また本書を携えて各地を巡りたいものだ。

2020/12/1-2020/12/1


ウイスキー起源への旅


私はウイスキーが好きだ。まだ三級しか取っていないが、ウイスキー検定の資格も得た。ウイスキー検定試験といってもなかなか難しい。事前に出題される問題を予習することが求められる。予習の中でウイスキーの歴史をひもといた時、まずでてくるのがウイスキーがはじめて文献に出てきた年だ。

1494年に出された文書にある「王の命令によりアクア・ヴィテ製造用に8ボルのモルトを修道士ジョン・コーに支給する」という文言。それがウイスキーの名前が文献に出てくる最初だという。

ウイスキーを好きになる時、味や香り、豊富な銘柄の豊富さにまず目がいく。続いて、ウイスキーの歴史にも興味が出てくる。それは、ウイスキーが時を要する飲み物であることが影響しているに違いない。出来上がるまでにぜいたくな時間が欠かせない飲み物。それを古人はどうやって発見し、どのように磨き上げてきたのか。わたしのような歴史が好きな人間はともかく、教科書を暗記するような歴史に興味がない方でも、ウイスキーに魅了された途端、ウイスキーの歴史に興味が出てくるはずだ。

だが、ウイスキーの歴史を把握することは案外と難しい。むしろ難解といっても良いぐらいだ。ウイスキーが史書に現れるのは、先に書いた通り1494年のこと。ただし、それ以降とそれ以前のウイスキーの歴史には謎が多い。それは、民が勝手気ままに醸造と蒸留を営み、時には領主の目を盗み、密造とは切っても切れないウイスキーの性格にも関係がある。つまり、ウイスキーの歴史には、体系だった資料は残されていないのだ。

だから、本当に1494年になるまでウイスキーは作られなかったのか、との問いに対する明快な答えは出しにくい。それが、ウイスキーの歴史に興味を持った者が抱く共通の疑問だ。同時にミステリアスな魅力でもある。

著者はその疑問を、ウイスキーの研修で訪れたスコットランドのエジンバラで強くいだく。というか疑問のありかを教わる。名も知らぬ老人。彼は著者に、ウイスキー作りは、ケルト民族の手によって外からスコットランドにもたらされた、と語る。外とはアイルランドのこと。つまり、アイルランドでは1494年よりもっと以前からウイスキーが作られていたはず。著者はそのような仮説を立てる。本書は、その仮説を立証するため、著者は費やした広大な旅と探求の記録だ。

著者はサントリーの社員だ。そして長年、ウイスキー部門に配属されていた。毎日の業務の中で、ウイスキーに対する見識を鍛えられてきた。本書のプロローグには、著者が農学部の学生の頃からゼミの教授にウイスキーをはじめとした蒸留酒について啓蒙されてきたことも記されている。著者はもともと、酒類全般への造詣が深く、酒つくりの起源を調べるための基本知識は備えていたのだろう。その素養があった上に、旅先での老人からの示唆が著者の好奇心を刺激し、著者のウイスキーの起源の謎を解く旅は始まる。

著者が持つお酒に関する教養のベースは、本書の前半で折々に触れられて行く。教授から教えられたこと。ウイスキーに開眼した時のこと。安ワインで悪酔いした学生時代から、後年、高級ワインのおいしさに魅了され、ワインの奥深さにはまっていったこと。ウイスキー作りに携わりたいとサントリーを志望し、入社したことや、そのあと製造畑で歩んだ日々。ウイスキー作りの研修でスコットランドやアイルランドに訪れた事など。そこには苦労もあったはずだが、酒好きにすればうらやましくなる経歴だ。

まずはエジプト。著者はエジプトを訪れる。なぜならエジプトこそがビールを生み出した地だからだ。ビールが生み出された地である以上、蒸留がなされていてもおかしくない。蒸留が行われていた証拠を探し求めて、著者はカイロ博物館を訪れる。そこで著者が見たのは、ビール作りがエジプトで盛んであった証拠である遺物の数々だ。旧約聖書を読んだことがある方は、モーゼの出エジプト記の中で、空からマナという食物が降ってきて、モーゼに着き従う人々の命を救ったエピソードを知っていることだろう。そのマナこそはビールパン。ビールを作るにあたって作られる麦芽を固めたものがマナである。しかし、イスラエルにたどり着いて以降のモーゼ一行に、マナが与えられることはなかった。なぜなら、イスラエルは麦よりもブドウが生い茂る地だったからだ。エジプトで花開いたビール文化はイスラエルでワイン文化になり替わった。

この事実は後年、アラビアで発達した蒸留技術がウイスキー造りとして花開かなかった理由にも符合する。そもそも蒸留技術それ自体は、イスラム文化よりずっと前から存在していたと著者は説く。エジプトでも紀元前2000年にはすでに蒸留技術が存在したことが遺物から類推できるという。しかし、蒸留技術は記録の上では、ミイラや香油作りにのみ使われたことしか記録に残っていないらしい。酒を作るために蒸留が行われた記録は残っていない。このことが著者の情熱にさらなる火をくべる。

一方、キリスト教の一派であるグノーシス派の洗礼では「生命の水・アクアヴィテ」が使われていたという。それはギリシャ、イタリア、フランスで盛んだったワイン製造が蒸留として転用された成果として納得しうる。ワイン蒸留、つまりブランデーだ。それがローマ帝国の崩壊後、今のヨーロッパ全域に蒸留技術が広まるにつれ、酒として飲まれるようになる。そして、ドイツ・イギリスなどブドウが成らない北の国では穀物を基にした蒸留酒として広まっていった。

著者はウイスキー造りの技術が1494年よりずっと以前に生まれていたはず、との仮説を胸に秘め、調査を進める。ついで著者が着目したのが、アイルランドに伝わったキリスト教だ。アイルランドのセント・パトリックスデーは緑一色の装束でよく知られている。その聖パトリックがアイルランドでキリスト教を布教したのは4~5世紀の事。当時のアイルランドには、ローマ帝国の統治がぎりぎり及んでいなかった。ところが、すでにキリスト教が根付いていた。後にキリスト教がローマ帝国全域で国教とされる前から。そればかりか、土着のドルイド教とも融合し、アイルランドでは独自の文化を築いていた。その時に注目すべきは、当時のブリタニアやアイルランドではブドウが育たなかったことだ。ローマ帝国にあった当時のアイルランドやブリタニアでは、ワイン文化が行き渡っていたと思われる。ところが、ワインが飲めるのは、ローマからの供給があったからこそ。ところが、ローマ帝国の分裂と崩壊による混乱で、ワインが供給されなくなった。それと同時に、混乱の中で再び辺境の島へ戻ったブリタリアとアイルランドには、独自のキリスト教が残された。著者はその特殊な環境下で麦を使ったアクアヴィテ、つまりウイスキーの原型が生まれたのではないかと推測する。

このくだりは本書のクライマックスともいうべき部分。ウイスキー通に限らず、西洋史が好きな方は興奮するはず。ところが、アイルランドのあらゆる遺跡から著者の仮説を裏付ける事物は発掘されていない。全ては著者の想像の産物でしかない。それが残念だ。

本書はそれ以降、アイルランドの歴史、アイルランドでウイスキー造りが盛んになっていたいきさつや、スコットランドでもウイスキー造りが盛んになっていった歴史が描かれる。その中で、著者はアイルランドでなぜウイスキーが衰退したのかについても触れる。アイルランドでの製法にスコッチ・ウイスキーでなされたような革新が生まれなかったこともそう。アイリッシュ・ウイスキーにとって最大の市場だったアメリカで禁酒法が施行されたことなど、理由はいろいろとある。だが、ここ近年はアイルランドにも次々と蒸留所が復活しているという。これはウイスキーブームに感謝すべき点だろう。

本書で著者が試みた探索の旅は、明確な証拠という一点だけが足りない。だが、著者の立てた仮説には歴史のロマンがある。謎めいたウイスキーの起源を解き明かすに足る説得力もある。

何よりも本書からは、ウイスキーのみならず、酒文化そのものへの壮大なロマンが感じられる。酒文化とともに人々は歴史を作り上げ、人々の移動につれ、酒文化は多様な魅力を加えてきた。それは、酒好きにとって、何よりも喜ばしい事実だ。

‘2018/7/29-2018/08/13


酒とつまみの科学 天ぷら・寿司には白ワイン? チーズやキャビアに日本酒が合う?


2014/1/12に家族で上野の国立科学博物館を訪れた際、閉館間近のミュージアムショップで本書の題名を見て購入した。酒飲みの端くれとして、酒のつまみにはこだわってみたいと常々思っていたこともあり。

かつてホテルで配膳の仕事を経験していた。コース料理の配膳を担当する際は、料理とドリンクのサービス順の意識は不可欠である。魚料理の前には白ワイン、肉料理の前には赤ワイン、といったところは無意識に沁みついている。

だが、それが果たしてどの程度裏付けのある話かとなると、途端に怪しくなるのである。他のあらゆる思い込み知識と共に。

本書は多種多様な食材を紹介しつつ、それに合う酒の種類を考察することを主眼としている。食材からの視点と、酒の種類からの二方向で考察しているため、参照するには便利な構成である。例えばウナギと赤ワイン。日本酒からはキャビア、ブランデーからはチョコレートなど。多種多様な組み合わせが紹介されている。

組み合わせについても、味覚に左右されるような曖昧な書き方ではなく、酒の香味成分とつまみの香味成分を掲示し、なぜその酒がこのつまみに合うのかを科学的に記載している。といっても、面倒な化学式が羅列されることはなく、あくまで名称としてである。

本書で紹介されるお酒の紹介が、少し端折りすぎでは?と感じた。どうやら姉妹編として、「うまい酒の科学」があり、酒の薀蓄はそちらで語られているためではないかと想像する。機会があれば合わせて読んでみたいと思う。

もちろん、食生活と酒生活を充実させる手助けとして、本書もたびたび読み返すことになるであろう。

’14/01/12-14/01/14