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おおかみこどもの雨と雪


全くの事前知識なしで家族と見に行った。アルプスの少女ハイジのような大人も楽しめる子供向け映画を想像していたのだが、予想とは違い、子を持つ大人向けに訴えかけるものがあったように思う。

アニメはジブリアニメを見る程度で、それほど詳しくないのだが、描写がお見事。都会のシーンについてはディテールまで丁寧に、田舎のシーンも草木や水、雪の描写まで丁寧に書き込まれている。自然を扱ったドキュメンタリーなどの実写映像だと意識せずに眺め過ごしてしまう風景描写が、アニメだと風景の輝きや妙のそれぞれに印象を残す。

ここまで細分にこだわっているからこそ、物語で監督が訴えかけたい問題に説得力がでてくるのではないかと思う。

他人との交流を最低限にしてもやり過ごせた日常と、子を持つ事で否応なしに周囲との軋轢を生む現実の対比。うがち過ぎかもしれないが、障害児を持つ親の立場についても監督は注意を払っていたのではないだろうかとまで思える。

田舎暮らしも単に自然万歳ではなく、DIYの厳しさや近所の助け合い精神が描写されており、単なる田舎礼賛を連ねるだけの作品ではないのが見て取れる。

でも一番監督の言いたかったのは母性と父性の問題ではないだろうか。

父親が雨と雪の幼少期に亡くなってしまい、母一人、都会で子育てをし、さらには田舎で一からの暮らしを作り上げる部分は果たしてそれが可能か?という突っ込みもあるけれども、あえて現代のママさんたちに頑張ってほしいというエールを送っているのかもしれない。

父である私にとっては父性の問題についても考えさせられた。作中では子育てに父が関与しないがために、却って父性の重要性が提起されているように思う。それは韮崎の爺さんや、おおかみの先生が彼ら一家にもたらす影響によって、想像し得る。

男と女のそれぞれの生き方を決める上で、女は環境に順応し、男は父性と本能に導かれるままに、女親から離れていく。この見方が生物学的に正しいのか私にはわからないが、今の情報氾濫の世の中で子育てについて迷う私を含めた親たちにとって、示唆を与えてくれているのは確かである。

下の娘(雨と同じぐらい)にとっては退屈に思えたかもしれないが、上の娘(雪と同じぐらい)にとっては、自分のこれからを決める上で考えるきっかけになればよいなと思った。

余談だが、子作りのシーンらしきものが冒頭に少し。本作品は子供にも見てもらうことを十分に考えていると思うのだけど、ここまで描いてしまうんや、と思った。参考になった。

’12/09/23 ワーナーマイカルシネマ 多摩センター