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テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム


本書はテトリスについての物語だ。テトリスの名前を知らない人はあまりいないと思う。私の娘たちも知っていたくらいだから。単純明快。それでいて中毒性を持つのがテトリス。上から落ちてくる四マスからなる四種類の図形を回転させ、横一列にマスを埋めれば消える。上まで積み上がればゲームオーバー。ゲームの歴史を彩った名作は多々あるが、テトリスは単純さと中毒性において屈指のゲームといえるだろう。

私がどうやってテトリスを知ったのかは覚えていない。ゲーセンのアーケードゲームなのか、任天堂のゲームボーイだったのか。その頃、ある程度テトリスをやり込んだ記憶はある。が、それほどはまらなかったように思う。少なくとも本書で紹介されたような人々が陥った中毒症状ほどには。むしろ、私がはまったのはテトリスの系譜を継ぐゲームだ。それは例えばCOLUMNS。またはキャンディ・クラッシュ・サーガ。それらの持つ中毒性には当てられてしまった。だからこそ、ゲームの世界に落ち物ジャンルうを打ち立てたテトリスには興味があるし、それを扱った本書にも興味を抱いた。なお、余談だが私は本書を読み始めてすぐ、読み終えるのを待ちきれずにiPad版のテトリスをダウンロードしてプレイした。その体験は久々で懐かしかったが、中毒になるまでは至らなかった。

テトリスの歴史や魅力のほかにもう一つ、本書が私に教えてくれたことがある。それは、契約の重要性だ。本書は契約の重要性を知らしめてくれたことでも印象に残った。

本書はロシア製のテトリスがどうやって世界中に販売され、受け入れられていったかのドキュメントだ。当時、ソ連はペレストロイカ前夜。社会主義の国是が色濃く残っていた時期。契約についての観念も薄かった。そのため、テトリスの版権や著作権、そして販売代理店や手数料など、西側の資本主義国のビジネスマンがこの不思議な魅力を持ったゲームを販売するにはいくつもの障害を乗り越えねばならなかった。本書はそうしたテトリスにまつわる契約のあれこれが描かれている。巨額の利権を産んだテトリスの権利をめぐる攻防。それは商売における契約の重要性を的確に示している。もちろん、本書はそうした契約上の文言を開示しない。一字一句掲示したところで野暮なだけだ。だが、契約をめぐる熾烈な競争は、私のように、情報サービスの契約を日頃から結ぶ身としてはとても興味深い。

もちろん、技術者としてもとても本書は面白い。テトリスがどういう発想から生み出されたのか。テトリスのプログラムがどういったマシン上で動作し、それを他の機種に移植する苦労。今と違って貧弱な当時のハードウエアの制限をどうやって克服したのか。技術者としてはとても興味をそそられる。

平面のさまざまな形を組み合わせ、別の組み合わせを作るペントミノと回転。それを横一列にそろえて列を消すだけの単純なルール。それは、イデオロギーも言葉や民族の違いを超えて人々を魅了した。また、当時のソ連のマシンは西側に比べ圧倒的に遅く、初期のテトリスは文字だけで実装されたプログラムだったという。アレクセイ・パジトノフがエレクトロニカ60で初期版のテトリスを開発した時、文字だけで動作するゲームしか作れなかった。そして、そんなマシンでも動くゲームだったからこそテトリスは人々をとりこにしていったのだろう。

貧弱なマシンが、当時のソ連にもわずかながら存在したギーク(ワジム・ゲラシモフ)によって別のマシンに移植され、それが当時唯一西と東をつないでいたハンガリーを通って西に出ていき、あっという間に西のマシンにインストールされていくいきさつ。それは、まさに歴史のダイナミズム。ベルリンの壁が崩壊する前、ハンガリーで開かれたピクニックが東から西への人々の移動を勃発させ、それが東西冷戦の終結への流れを生み出した事実は有名だ。テトリスもまた、歴史の舞台の展開に一役買っている。それは歴史が好きな向きにとっても見逃せない。本書には「テトリスをソ連が世界に貢献した唯一の物」と言う文が収められているが、まさにソ連とはそういう存在だったのだろう。

冒頭にも書いたとおり、私が初めてテトリスに触れたのは任天堂のゲームボーイだ。ところが、任天堂がテトリスを出すまでには、一山も二山も超えなければならなかった。その中で大きな役割を果たした人物こそがヘンク・ロジャースだ。彼こそが本書の主人公といってもよいだろう。ところが彼はがテトリスのライセンスを巡る物語のなかでは後発組だ。

最初にテトリスに目を付けた西側で最初の人物は、ヘンク・ロジャースではなく、ロバート・スタインだ。マクスウェル社のスタインは、ハンガリーから西側に登場したテトリスに真っ先に目を付け、そのライセンシーを獲得しようと奔走する。ところがスタインは、テトリスの開発者アレクセイ・パジトノフと直接コンタクトを取り、FAXでやりとりをして契約を結ぼうとする。それはもちろん過ちだった。よりによって一人のプログラマーに過ぎないパジトノフに西洋流の契約についての知識はない。もちろんスタインも正式な調印無しに事を進めることの危険性を理解していたはず。だが、テトリスの製品化は西側のプログラマによってあっという間に進められてしまう。そして未契約のまま西側で製品を流通させたことに焦ったスタインが時間を稼いだにもかかわらず、西側の市場に出回ってしまう。ソ連側や開発者のパジトノフにまったく利益が還元されないまま。スタインは板挟みになり、ますます契約締結を焦る。

それ以降の本書は、ヘンクがどうやってスタインに先行されたテトリス・ビジネスの劣勢を挽回していくかの物語になる。本書の冒頭で、ヘンクはつてもコネもアポも全くないままモスクワを訪れる。何もあてがなかったヘンクは街中でチェス愛好家と知り合い、それを手がかりにソ連の情報関連の管理を一手に行うERLOGに接近することに成功する。そしてスタインとの契約がソ連側に何ももたらさなかったことを、ERLOGの責任者アレクサンドル・アレクセンコに知らせる。そのことを知らされたERLOGのアレクサンドル・アレクセンコはスタインとの契約に失望を覚え、怒りにかられる。

そこでヘンクはまず契約の不公平さをあらためるため、即座に小切手でソ連が本来取るべきだった取り分を提示する。この誠実さに打たれたERLOGの担当は感銘を受け、ヘンクを信頼する。アレクサンドル・アレクセンコも、後継者のエフゲニー・ベリコフも同じ。ただし、スタインに悪気があったわけではない。ただ、スタインがやってしまった失敗とは、契約の調印が済んでいないのに、FAXのやりとりだけを頼りに西側への販売権をマクスウェル社やスペクトラム・ホロバイトに販売してしまったことだ。

スタインに比べ、後発のヘンクには、先人スタインの犯した過ちを挽回するチャンスも機転もあった。彼はまず誠実な対応をとり、ヘンクという人間を売り込む。ヘンクの対応はベリコフを信頼させるのに十分だった。そこでベリコフはスタインとの契約にとある修正をほどこす。その修正はスタインとERLOGの間に交わされた契約の条項にハードウエアの条件を書き加えるものだ。その修正はスタインの契約をパソコンに限定させる効力を持っていた。それに気づかぬまま調印したスタインは、ヘンクにまんまとポータブルゲームや家庭用業務ゲーム機器にライセンスを与える契約をさらわれてしまう。

ヘンクはその勢いで、テトリスをめぐるアタリ社やテンゲン社とのライセンス契約締結の競争にも勝利する。ヘンクの勝利の裏には、任天堂の山内溥、荒川實、そしてハワード・リンカーンの全面的なバックアップがあった。彼らに共通していたのは、任天堂が発売するゲームボーイに載せるゲームとして、テトリスがもたらす巨大な可能性を見抜く先見性だ。目的を一つにした彼らは、ライバルに契約面で勝利を収め、テトリスとゲームボーイのセットを世界中で売りまくる。

かつてファミコンが世界を席巻する前、ゲーム業界はアタリ社が優勢を占めていた。そのアタリ社が事実上、ゲーム業界で任天堂に覇者の座を譲ったのは、このできごとがきっかけだったのではないだろうか。

本書はパソコンの、そしてゲーム専用機の黎明期、さらに商売の面白さと怖さを知る上でも興味深い。

また、本書はテトリスの歴史に欠かせないヘンクの経歴にも触れる。その中で、ヘンクが開発したザ・ブラックオニキスの話など、初期のゲーム開発の苦労がよくわかるのが面白い。私はザ・ブラックオニキスの名前は知っていたが、プレイしたことがない。本書を読んでいてやってみたくなった。

本書はここまでのいきさつだけでも読み物として十分に面白い。が、それだけでない。本書にはテトリスの科学的な分析が三つのコラムとして挿入されている。BONUS LEVEL 1-3と題されたそれぞれのコラム。そこではプログラムの面からみたテトリス。テトリスの中毒性を心理学からみた考察。PTSDの治療にテトリスを使う試み。それらのどれもが知的興奮を誘う。

また、各章にもミニ知識としてテトリスに関するあれこれの豆知識が仕込まれている。例えば初期のテトリスにはボスが来た(1キー押下で仕事をしている振りを見せる画面を表示させる)機能があったり。

本書はすべての技術者やゲーマーにおすすめできる一冊だと思う。さらには、私のような契約の実務にも携わる方や営業に駆け回る方にも良い教材として勧めたい。

‘2018/05/10-2018/05/17


クラウドワークスさんの直接契約禁止条項を考える


クラウドワークスさんの件が話題になっています。

GoTheDistanceさんのブログ
クラウドワークスで月収20万超え、わずか111名。働き方革命の未来はどこにある?

ふくゆきブログさん
「クラウドワークスで月収20万超え、わずか111名」は嘘だと思う。

やまもといちろうさん オフィシャルブログ
クラウドワークスが悩ましい件で

かく云う弊社もクラウドワークスさんには登録はしているものの、まだ一度も利用していないのですよね。受注どころかこちらからの提案すらまだ。そもそもプロフィールが完全に埋め切れていないという。

替わりに、なぜかクラウドワークスさんからは仕事提案を色々と頂きます。しかもなぜかライター案件ばかり。ビジネス案件にしても、よくあるテンプレートを使ったタイトルや文面が目立ちます。

このあたりの柔らかさが、「クラウドワークスが悩ましい件で」という批判にも繋がっているのでしょうね。ある種の商売の温床に使われているような微妙な香りが漂っていて。堅実なマッチングサイトに徹して頂ければ我々も安心して使えるのに。

これでは「クラウドワークスで月収20万超え、わずか111名」というフレーズでサービス自体を揶揄されてしまうのも分かります。ただ、一方では、ふくゆきブログさんの「「クラウドワークスで月収20万超え、わずか111名」は嘘だと思う。」との指摘もあります。いったい何が正しいのでしょうか。

弊社がクラウドワークスさんの利用を躊躇う理由の一つに、クラウドワークスさんの利用規約に記載のある直接契約の禁止条項があります。この件については、kintone活用研究会を主宰する株式会社テクネコの加藤和幸さんも指摘されています。以下にその部分を抜粋させて頂きます。

クラウドワークス利用規約
第5条 本サービスの内容
14. 会員又は過去5年以内に会員であった者は、会員又は過去5年以内に会員であった者と、本サービスを利用せずに、直接に本サービスを通じて委託可能な内容に関する業務委託契約を締結すること及びその勧誘をすることを行ってはならないものとします。但し、弊社が事前に承諾した場合はこの限りではありません。
出典元:https://crowdworks.jp/pages/agreement.html

この条文って我々利用者にとっては結構重大だと思うのですよね。今年の年頭に弊社は一年の計を考えました。その中でクラウドワークスさんの利用促進を考えねば、と利用規約を読みました。それで、上記の一文に行き当たり、なんやこれ? と思いました。

弊社が今年年頭にクラウドワークスさんの利用促進を考えたのには、理由があります。それは2015年末に楽天ビジネスさんがサービスを終了したことです。楽天ビジネスさんには、2010、2011年度にかなりお世話になりました。弊社がまだ法人化する前、個人事業主として活動していた頃です。

今回のサービス終了にあたり、楽天サービスさんのサイトも3月末でアクセス不可になるようです。よい機会なのでサイト内に残された弊社の利用情報の取得を行いました。その上で2010年度の利用状況はどうだったかを簡単にまとめてみました。

見積り数
商談数
受注数
受注金額
月額利用料
紹介手数料
税抜純利益
:67件
:21件
:6件
:1,318,000円
:6800円×12か月=81600円
:1000円×21件=21000円
:1,215,400円

2010年4月~2011年3月 楽天ビジネス利用概況

12か月で121万円ですから、月に均すと10万円。今回話題になったクラウドワークスさんの決算報告で出てくる20万円の半額です。ちなみに弊社の2010年度のお仕事は楽天ビジネスさん経由が全てではないので念のため。他のお客様からも多数のお仕事を頂いておりましたよ。ありがたいことに。

で、何が云いたいかというと、この年、楽天ビジネスさん経由で頂いた恩恵は131万に限らないということです。最初のご縁こそ楽天ビジネスさんを通じ、結果として131万円を頂きました。でも、お仕事って一度きりのご縁では終わらないですよね。楽天ビジネスの案件が終わって以降もこの時受注した方々からは継続的にお仕事を頂いています。また、この時ご縁が出来た中の幾人かの方とは未だにプライベートも含めてお付き合いを続けさせて頂いています。要はこの時のご縁から受けた恩恵は131万という金銭だけでは評価できないということです。この時のご縁からは、長きにわたって金額やそれ以外の部分も含めて何倍もの恩恵を受けています。感謝です。

でも、仮に楽天ビジネスさんの利用規約に直接契約の禁止条項が定められていたら? 楽天ビジネスさんを通じて繋がったご縁を直接取引に切り替えることが禁止されていたとしたら? あるいは弊社も今に至るご縁は頂けていなかったもしれません。

弊社(個人事業主時代)と楽天ビジネスさんで締結した契約によれば、金額体系は以下の通りです。月額固定のシステム利用料6800円と商談成立毎に1000円、それと初回の研修受講料として20000円のみ。個人事業主であったため、安価でしかも単純明快な料金体系でした。しかも当該案件に関しない直接取引については全く自由でした。楽天ビジネスさんの出展規約を改めて読み直してみましたが、該当しそうな条項は精々以下の箇所ぐらいでしょうか。

第8条(本サービスの利用)
4.出展者は、本サービスに関し以下の事項を遵守するものとします。
(3)本サービスの利用の結果、サービス希望者との間で契約(口頭、書面を問いません。)を締結した場合において、当社から要請があった場合には、直ちに、サービス希望者の名称、契約に関する代金の金額、支払方法その他当社の定める事項を当社の定める様式にしたがって当社に報告すること。
出典元:http://business.rakuten.co.jp/docs/info/terms_exhibitor/terms_exhibition.html

楽天ビジネスさんがサービスを終了した理由はわかりません。プレスリリース上にも理由は書かれていませんでしたし。ならば仮に、クラウドワークスさんのように当該案件が終わった後の取引も、サービス運営元を経由することを義務付けていたらどうだったでしょうか。継続的にサービス運営元に収入が入る仕組みにしていれば、楽天ビジネスさんのビジネスは中止の憂き目を見なかったのでしょうか。それもわかりません。分かるのは、楽天ビジネスさんのように月額固定でのシステム利用料を徴収していても、案件成立毎に固定の手数料を頂く料金体系でも、サービス継続を行う理由にはならなかったということです。

クラウドワークスさんの場合、料金体系はもっと単純です。契約額の一定割合を徴収します。そして楽天ビジネスさんと同じく、案件を提示する側は原則無料で案件を提示できるのです。基本利用料の発生しない料金体系は出展者には魅力的に映りますよね。しかしその料金体系を採用している限り、案件数が多くなければサービス運営元にとって収益になりません。

案件数を増やしたいのであれば、案件を出す発注元は大切にしなければなりません。発注元の負担が増すような仕組みはもってのほかです。でも、直接取引の禁止という規約は発注元の負担を増すだけのように思えます。折角最初の取引で馬が合う業者さんを見つけても、5年間は発注の際にクラウドワークスさんの仕組みを通さなければならないのですから。メールやLINEやChatworkでひょいっと「こういう仕掛けってちゃちゃっと作れない?工数見合いでお金はきちっと出すからさぁ?」といった依頼も出せなくなります。これって案件を出す発注元にとってクラウドワークスさんを使う意欲を萎えさせませんか? 発注元にとって魅力的な仕組みであってこそ案件数も増え、クラウドワークスさんの収益モデルにとって有益になると思うのですが。優良な発注元が減り、長期的なお付き合いなど無用で一回切りでよいから安価な提案を集めたいという発注元ばかりになると、出展者にとってクラウドワークスさんが魅力的なサービスでなくなってしまう気がします。

とっかかりのご縁はとても重要です。案件マッチングサイトの存在意義は間違いなく今後もあります。でも、発注者と出展者にとっては、そのご縁をきっかけに築きあげる直接の信頼関係もとても重要なのです。クラウドワークスさんには、是非とも直接契約の禁止条項(第5条14項)の撤廃検討をお願いしたいところです。または、条項に記載されているような「但し、弊社が事前に承諾した場合はこの限りではありません」の“場合”が何かをきっちり定義して頂くとか。

その替わり、クラウドワークスさんが継続的にサービスを継続できるための料金体系の構築は、我々出展者や発注元も真剣に考えていかねばなりません。クラウドワークスさんのようなサービスが今後も生き残るためには、サービス運営元としての利益確保は蔑ろにはできないのですから。楽天ビジネスさんのサービス終了は出展者にとっては商流チャネルの消失でもあります。避けたいところなのです。

例えば出展者へのオプションとして月額利用料有りのプランを設けるとか。発注元にも成約金額の一定割合の負担をお願いするとか。当該取引によって得た業務改善効果や収益改善効果の記事をクラウドサービス内にアップしてもらうことを義務付けるとか。この記事はクラウドワークスさんだけでなく、発注元、出典者にとっても外部リンク効果や広告効果として長期的な利益になるかもしれません。

是非ともご検討をお願いしたいところです。