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ブラジルワールドカップが終わりました。ブラッターFIFA会長が自賛していたとおり、今回のワールドカップは成功だったと言えるのではないでしょうか。
議論の的となる西村氏の判定から衝撃のスペイン敗退を経て、ネイマールの怪我、茫然のブラジル大敗を経て、緊迫した決勝戦で幕を閉じる、そんな起承転結のある大会。過去のW杯でも幾多の名勝負はありました。けれど、大会全体を通じてドラマを感じさせる大会にはなかなか巡りあえるものではありません。

以下に私が今大会で思ったことをまとめも込めて書き連ねたいと思います。

・チーム
4強の顔ぶれこそ、ある程度予想がつくものでした。とはいえ敗れ去ったチームも好チームが多く、大いに大会を盛り上げてくれました。中でも中南米のチームが出色の出来でした。コスタリカの大躍進は只事ではありません。堅守速攻のカウンターが目立った今大会でしたが、コスタリカはそのスタイルで印象に残りました。
コロンビアは日本も負けて納得と言える強豪チームでした。バルデラマやイギータ、エスコバルの時代の中堅イメージとは決別です。ハメス・ロドリゲスこそが今大会のMVPに相応しいというマラドーナの意見はもっともでしょう。
メキシコのオチョアの超人的セーブの連発も素晴らしかった。また、トータルフットボールを思い起こさせる全員サッカーのチリは日本のサッカーにとって見習うべき姿勢を持ったチームでした。最後に選手時代の記憶も新しいクリンスマン、彼に率いられたアメリカも強豪として名を連ねるに相応しいチームでした。優勝こそドイツに譲りましたが、アメリカ大陸の大会で南米勢が優勝する、というこれまでのジンクスは未だ健在、と思わせる南北両アメリカの各チームの活躍ぶりが印象的です。

・戦術
スペイン衝撃の敗退は、ボール保持率を高く保つポゼッションサッカーの終焉を錯覚させるものでした。変幻自在のパス回しで相手を疲弊させるサッカー。バルサからスペイン代表へ。6年間に及ぶ黄金期はまだまだ続くと思わせただけに、その大敗には目を疑いました。
一見、運動量を必要としないように見えるポゼッションサッカー。それをやり抜く裏には的確なポジショニングと瞬時の状況判断が欠かせません。肉体と頭脳の疲れを知らぬ貢献が必要です。しかしスペイン代表には、それを成し遂げるだけの新陳代謝に衰えが生じました。そしてポゼッションサッカーの申し子として新たに名乗りを上げたのがドイツです。ポゼッションサッカーの新たな展開へ。若さから老練さを含んだ幅広い選手層からなる集団は、スペインのサッカーをよりグレードアップさせた魅力的なサッカーで開催国を大差で破り、優勝しました。
しかし本大会はスペインからドイツへの世代交代だけが見せ場だったわけではありません。球際へ。より球際へ迫るサッカー。走る。より走るサッカー。運動量とチャージこそがポゼッションサッカーを破る秘策とばかりに、当りを強くして運動量豊富にパスコースをふさぐ。パスを自由に出させない姿勢に、スペイン対策の熟慮が見えた大会でした。
また、サッカー大国に対するには速攻から。本大会では昔ながらの堅守速攻を旨とするチームが予想外に健闘しました。分厚い攻めを展開したチームは、その分背後が薄い。そんな隙をついて速攻を掛けることに勝機を見出す。優れた攻撃タレントを擁するチームにもそういったスタイルが見え隠れしていました。ブラジルやオランダ、アルゼンチンなど。堅守速攻を支えるための最後の砦であるGKに人材が輩出したのも今大会の見どころでした。
スペインが育て、ドイツで花開いたサッカー。次のロシア大会までにどのような趨勢がサッカー界を覆うのか。楽しみでなりません。

・分析と審判
スカウティングを始めとして、サッカーを取り巻く環境も変わったのが今大会です。ゴール判定に最新のセンサーが導入され、ゴールと判定された瞬間に主審の腕時計にゴール通知が着信する。とうとうそのような技術支援が前面に出てきました。
一方で、開幕戦から問題となったように審判の判断にブレが見られました。反則かどうかの判断はデータやセンサーではどうにもなりません。ビデオ判定に頼ればゲームの流れを妨げます。
審判については少しかじったので多少わかりますが、実に細かく奥の深い世界です。審判のプロ化の歴史はまだ浅く、今後のサッカー界の課題となるような気がします。今回の大会から使われるようになったスプレーなど、まだまだ審判にも工夫の余地はあるのではないでしょうか。

また、データ分析についても、長足の進歩を遂げました。特に試合中の選手の走行距離やパス数、成功率や守備機会など、データ偏重主義のきらいも出てきています。アメリカのプロスポーツ界の風潮にならったのでしょうか。フットボールのアメリカ化といってもよいでしょう(まさにアメリカンフットボール)。試合中のダイナミズムを失わずに、サッカー観戦の妙味を失わない程度に付き合うのがよいかと思います。

・日本
選手・監督・スタッフ。よく頑張ったと思います。少なくとも私には批判んするつもりも資格もありません。心からお疲れ様と言いたいです。
ただ、予選敗退後に長谷部キャプテンが言っていたことについて、考えねばならないことも事実です。「サッカーは世界の文化。強豪国は文化として根付いているし、負ければ厳しい批判に遭う。 国民の皆さん、メディアの皆さんには、もっと厳しい目でみてもらいたい」
かといって予選敗退後にスポーツ紙が見せたような手のひらを返したような仕打ちは品位を損ないます。予選敗退後に国民の関心が急速に冷めたように思えるのも気になります。本戦ではスリリングな試合が繰り広げられていたというのに。日本が負けた途端のその態度はないでしょう。
要はまだ日本にサッカーが文化として根付いていないということでしょう。世界に誇るキャプテン翼を生み出した国として、これは由々しき事態と言えるのではないでしょうか。
そのためにも、まずは初心に返りたいものです。本大会で日本はチームの平均身長が二番目に低かったとか。一番低かったチリがスペインやブラジルを苦しめたようながむしゃらな運動量。走りにはスランプがないとか野球の世界では言われます。日本のパスが通じなくても走りで力の差を埋めるようなサッカー。そこにパスサッカーを組み合わせることに活路を求められないでしょうか。窮してもロングボールによるパワープレイに頼らずにすむサッカー。

まだまだ発展途上です。日本のサッカーは。だからこそ楽しみがある。伸び代も残されている。そして希望も。ドーハの悲劇もまだ記憶に新しく、国際的に見ても新顔なんですから。日本は。チャレンジ精神を持ち続けて欲しいと思います。


カテゴリ: 物申す.
最終更新日: 7月 18, 2014

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