毎年この時期が来ると必ず原爆関連の写真集やその他書籍に目を通します。私自身が平和記念資料館を訪れた際、何を感じ何を目に焼き付けたのか。あの夏の朝、何が人類に起こり、何を人類は行ったのか。その記憶を新たにするため、この時期は広島・長崎への原爆投下関連資料に目を通すようにしています。

先日、重松清さんの「赤ヘル1975」を読みました。1975年の広島東洋カープが、原爆からの復興に向け努力する広島市民にとってどれだけ劇的な存在だったか。カープの優勝が原爆投下から30年という節目の年に広島市民からどれほど歓迎されたか。そのことが「赤ヘル1975」には書かれています。すでにレビューとしてまとめているので、いずれアップしたいと思います。

今年のカープは強い。カープがこのまま優勝まで突き進んだとすれば、それは広島市民にとって1975年の初優勝に匹敵する出来事になるかもしれません。セ・パ12球団の中でもっとも優勝から遠ざかったチームであるカープ。しかし今年は優勝に向けて力強くペナントレースを戦っています。それは今年の広島を象徴するに相応しい戦い振りです。というのも、今年は広島にとって重要な出来事があったからです。

この5月にオバマ大統領が広島を訪問しました。云うまでもなく原爆を落とした当事国である米国の現職大統領です。オバマ大統領の広島訪問でのスピーチには、米国の責任を回避するためのレトリックが注意深く散りばめられていました。おそらく、そのことに一番違和感を覚えたのは被爆者の方々でしょう。でも、たとえポーズであったとしても、訪問したという事実を作るだけであったとしても、私はオバマ大統領が訪れたという事実を評価したい。

私はオバマ大統領のスピーチから米国の抱える投下国としての罪の意識と、それを認めまいとする面子のせめぎあいを感じました。当時の人々の行為を断罪できるのは当時の人々だけ、というのが私の持論です。当時のアメリカの行為を断罪できるのは、云うまでもなくあの夏の朝、原爆の惨禍を目の当たりにした被爆者の方々です。断罪という言葉では言い足りないくらいでしょう。しかし、様々な資料を読むと、当時のアメリカ国民の多くが本気で大日本帝国による本土侵略を脅威に思っていたことは事実のようです。ナチスドイツや日本でも原爆開発が行われていたこともよく知られています。マンハッタン計画に邁進したアメリカの判断はいまさらどうこう非難できるものではないと思っています。ただ、すでに死に体となっていた敗戦間際の日本に敢えて原爆を投下した当時のトルーマン大統領の判断は、明らかに戦争犯罪といえます。もはや戦争の勝利よりも戦後の国際関係の主導権掌握のためだけに原爆を投下したようなものですから。30万以上の人々の上に。

繰り返しますが、原爆投下というアメリカの戦争犯罪を真の意味で断罪できるのは、被爆者の方々だけです。被爆者の方々はもっと怒っていいはずです。ですが、広島・長崎の人々はもっと広く高い立場からアメリカを断罪しています。「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」という原爆死没者慰霊碑に刻まれた文面はまさにその象徴です。あの文面から読み取れるのはただ平和を求める想いです。被爆者の方々にとってそれほどまでにも平和への想いは切実だったといえます。焼け爛れたヒトや町並みを目の当たりにした方々だからこそ、そう思えたのかもしれません。私は原爆死没者慰霊碑の碑文を敗戦国による勝者への阿りとは思いません。あの碑文の価値はおそらくこれから先よりいっそう真価を発揮していくと思っています。あの碑文が被爆者としての直接的な恨み辛みを書いたものであれば、たぶんこの碑の意義はもっと低くなっていたことでしょう。オバマ大統領による献花もなかったかもしれません。とはいえ、今回のオバマ大統領の広島訪問にあたっては、被爆者の方々はもっとオバマ大統領個人の、アメリカの面子に拘らぬオバマ大統領の肉声の謝罪を聞きたかったことでしょう。その気持ちはもっともです。でも、オバマ大統領も戦後産まれの方です。あのような微妙に責任をぼかしたようなスピーチ以上のことは言えなかったのではないでしょうか。私は偽善やポーズだけといった批判を承知でなお、広島に行くことを望んだオバマ大統領の行為そのものに大統領の謝罪の気持ちと誠意が顕れていると思いました。

たぶん、アメリカで原爆投下への罪の意識が大勢を占めるのは、第二次大戦に実際に参加した軍人や政治家が全て亡くなった後のことになろうかと思います。たとえパールハーバーで日本から騙まし討ちを受けたとしても、その報復としてはリトルボーイとファットマンはあまりに過剰なものだった。アメリカでもそういった歴史的評価が定まることでしょう。でも、そのときには被爆体験をした方々も全てお亡くなりになっていることでしょう。それは被爆者の方々にとって実に無念なことだと思います。

だからこそ、われわれのような平和な時代しか知らない人間は、資料や書簡や書籍から、特定のイデオロギーやトンデモ陰謀論に惑わされることなく、客観的な姿を伝えていかなければならない、と思っています。「過ち」を繰り返さないためにも。

今年ばかりは広島東洋カープを応援しています。カープ出身のアニキ率いる阪神タイガースにも頑張ってほしいのですが。1975年の赤ヘル旋風を知らない私にとって、カープ女子の席巻する広島が祝賀ムードに染まる姿が観てみたい。米国大統領による実質上の謝罪があった年を締めくくるイベントとして。

写真は3年半前に家族で訪れた際に撮影した原爆死没者慰霊碑。秋に訪れられれば訪れたい。IMG_8677


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