上巻がジェットコースターの徐々に登り詰める緊迫感にあるとすれば、下巻はひたすらに下り堕ち、滑り逝く、激走である。

前半の心理戦とは打って変わって、後半は肉弾戦であり、アクション映画ばりの銃撃戦が展開される。校舎内での大量殺戮の描写に費やす筆力たるや圧巻である。それはあたかも、上巻で文章内にため込んだ力が弾けるかのよう。

では、上巻でため込んだ主人公ハスミンの異常性が、下巻で一気に噴出したかというとそうではない。状況に比例して、ハスミンの異常度を飛躍させたのでは、凡百のスプラッタやB級アクション映画と同じレベルに本書が堕してしまう。状況の異常度が加速度的に進行しているにも関わらず、ハスミンの言動の破綻度は、上昇しているとはいえ、ペースが変わらない。

この殺戮現場の異常度の上昇と、主人公の悪の進捗率の上昇をずらしたところに、本書の真骨頂があるのではないかと思える。あくまでハスミンは内なる悪の教典に従い、行動を行っているのである。そのずれ具合が私には非常に印象的であった。

文中に、アメリカのプログレメタルバンドDream Theaterの曲名が数度出てくる。彼らの音楽には、変拍子を多用した曲が多い。それはまさしく、この主人公を取り巻く状況と内面のずれに対応しているように思える。あくまでも私の想像だが、著者は、執筆しながらDream Theaterを聞いていたのではないだろうか。繰り返し。

そして、殺戮が一段落したのちにも、破綻した校内とは対照的なまでに、破綻せずにひたすら上昇するハスミンの姿が印象的である。それもまた、変拍子とともに起伏ある展開が聞きごたえの、Dream Theaterへのオマージュとも思える。

私も10数年来、Dream Theaterを聞き続けている者だが、まだ未見の本書の実写映画を見る際には、彼らの曲を掛けながら見てみようかと思っている。

’12/05/24-12/05/26


カテゴリ: 読ん読く.
最終更新日: 7月 27, 2014

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