著者の歴史観の支持者である。歴史に対して特定のイデオロギーに傾かずにバランスを取ろうと努力する姿勢は、私の目ざすところとも一致する。

昭和史を主分野とする著者が、幕末を取り扱ったと聞き、本書を手に取った。

昭和史は、その時代の結果が平成の御世に生きる我々にも影響を与えている。それだけに、我々も描かれた内容に対し、身構えて読む癖がついている。一方、幕末はどちらかといえば異なる時代という認識が強く、史書を読んでも小説を読んでいるかのようである。実際はかなりの影響を現代に与えているにもかかわらず。

幕末、日本の歴史上で唯一といってよいほど、維新の名が後世に定着した時代。その歴史を取扱うに当っては、現代のわれわれにどういう影響を与えたか、そして当時の人々が国論を何分にも分け、命を懸けて日本を変えようとどう努力したか。油断すれば小説のように他人事として見てしまう時代の空気をどう伝えるか。バランス感覚が求められるところである。

著者はその時代を一歩引いた目で見つつ、ソフトな語り口となるべく実生活に近いエピソードを盛り込むことで、我々にとって幕末が遠い昔の話ではなく、今の日本に直接つながっていることを知らせようと努力している。

私にはその努力は実を結んだのではないかと思う。幕末史入門編として、お勧めの一冊。

’12/04/27-12/05/02


カテゴリ: 読ん読く.
最終更新日: 7月 27, 2014

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