スコッチウィスキーや、スコットランドの荒涼とした景色に憧れのある私にとって、本作でスクリーンに映される本場の蒸留所内部やハイランドの景色は、それだけで及第点を与えられる。

本作を見るにあたり、労働者階級の若者が這い上がっていく姿が描かれていると知ったときは、「トレインスポッティング」「リトル・ダンサー」で作品背景として取り上げられたような、現代イギリスの矛盾についての描かれ方にも興味を持って臨んだ。

底辺からの脱出を貴重な銘酒を盗むことで果たすという、大筋とその結末は賛否あると思う。だが、それは国情も文化も違う国の事。私にどうこう云う話ではないと思う。

むしろ、本作で面白いのはウィスキーの描かれ方である。テイスティングのフレーズをコケにする。飲み残しや痰壺かわりのウィスキーを飲ませる。中身を入れ替えたウィスキーをオークション落札者に賞賛させる。オークションの前日に怪しげな相談を持ちかけられるのは、実在の蒸留所のマネージャー(その方は俳優が演じているのか、本人役なのかはわからないが)である。貴重な銘酒をまんまと盗まれるのは実在の蒸留所からである。

その一方で、テイスティングの権威として登場するのは、本物のウィスキーの権威であり、本物の蒸留所が実名で登場する。

普通に考えれば、コケにされる蒸留所は仮名だろう。スコッチの描かれ方も、名声を壊さない程度に採り上げるところだろう。だが、そうしないところが面白い。歴史の荒波を潜り抜けてきたスコットランドとスコッチウィスキーの、したたかでユーモアを大切にする精神が見え隠れする。ブームの陰で、スコッチウィスキーーの味を知らないスコットランド人の若者が増えていることを、本作を見て初めて知った。本作でスコッチウィスキーの若者離れが食い止められたとすれば、見事というほかはない。

観終わった後の後味もすっきりしていて、私も本作を観た後、無性にスコッチが呑みたくなった。(呑んだのは余市蒸留所の原酒だが・・・)

2013/6/23 川崎市アートセンター アルテリオ映像館


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