ニール・サイモンと云えば喜劇作家として知られた存在だ。でも、今まで私は舞台やスクリーンを含めてその作品を観劇する機会がなかった。かねてからアメリカの喜劇に興味を持っている私としては、舞台で一度きちんと観てみたいと思っていた。そんな折、ニール・サイモン作品を初めて観劇する機会を得た。

今回妻と観にいったのは「噂-Rumours」。演ずるのは演劇レウニォン トップガールズと仲間たちである。女性6人、男性4人によるストリート・プレイ。麻布区民センターの区民ホールは座席数175名と小規模だったが、おかげで舞台全体がよく見渡せたし、10人の動きがよく把握できた。これぞ小劇場の醍醐味。小劇場での観劇は久しぶりだが、この距離感こそが演劇の楽しみ方として正当だと思う。

本作はニューヨーク郊外の豪邸の居間を舞台としている。暗転して登場するのはクリス・ゴーマン。取り乱した様子で右往左往している。そんな彼女に指示を出しながら二階から降りてきたのは夫のケン・ゴーマン。二階のチャーリー・ブロックの部屋から降りてきた彼もまた、平静ではない様子。この家の主であるチャーリーはニューヨーク市長代理。ゴーマン夫妻は到着するやいなや、銃声を耳にする。チャーリーが自分で耳たぶを撃ったのだ。そのことで動転しつつ、事態を穏便に済ませるため隠蔽をたくらむ夫妻。しかし、チャーリーが大変なことになっているのに妻であるマイラの姿は見えない。お手伝いさんもいない。チャーリーとマイラの結婚10周年記念パーティーに呼ばれたはずが、ゲストである自分達が事態の収拾を行わねばならなくなる。そうしているうちにパーティーに呼ばれた客たちが時間を空けて次々とやってくる。レニーとクレアのガンツ夫妻。アーニーとクッキーのキューザック夫妻。そしてグレンとキャシーのクーパー夫妻。クリスとケンの隠蔽のたくらみが、ガンツ夫妻を巻き込み、さらにその隠し事はアーニーとクッキーを混乱に落とし込み、グレンとキャシーまでも勘違いと行き違いの中で夫婦仲の悪化をさらけ出すことになる。

次々と登場する8人の人物が居間、チャーリーの部屋、台所と舞台から自在に出入りする。さらに頻繁にかかってくる舞台左脇の電話が彼らの混乱に拍車をかける。ケンはチャーリーの部屋で誤って拳銃を暴発させてしまい耳が一時的に聞こえなくなる。耳の聞こえないケンの行動が彼らの勘違いを一層混迷に突き落とす。このあたり、喜劇の舞台を作ってゆく手腕はさすがの一言。

とうとう隠し果せなくなり、ケンとクリスが意図した隠蔽は破綻する。なぜパーティーなのにホストがいないのか、この家でいったい何が起こっているのか。あとから来た6人にとって違和感が解ける瞬間だ。ところが、そこに警官が二人訪問する。慌てふためく8人。彼らはいずれもニューヨークの名士。スキャンダルは避けたい。警官を相手に演ずる必死の隠蔽工作がさらなる笑いを産み出す。喜劇作品の本領発揮だ。

幕間なしの1時間35分はライブ感覚にあふれていて、とても良かった。多少のとちりかな?という台詞も見え隠れしたけど、すぐに台詞で挽回していたため、進行には全く問題なかった。とくに最後、レニーによる長広舌の部分は見せ場。咄嗟に警官に説明するための嘘をこしらえ、即興で説明する様子の演技はお見事。あれこそが本作の山場だと思う。その臨場感は演劇のライブならでは。小劇場の舞台と客席の近さ故、舞台上の時間と空間を堪能することができた。

演劇は映画と違って、ナマモノだ。編集という作業でどうにかできる映画とは違う。そのあたりの緊迫感は演劇ならでは。また、公演期間内に修整が出来てしまうのも演劇の良さだろう。正直、本作はまだまだ良くなると思う。トップガールズと仲間たちにとって、今日は初日だった。なのでこの後も間合いの修正や台詞回しについて修正を行っていくのではないだろうか。私が観ていても、まだまだ本作の秘める笑いのツボはこんなもんじゃない、と思った。宣伝文によると過去の舞台では700回の爆笑が産まれたという。が、座長の白樹栞さんが最後の挨拶で77回の笑いがありました、といっていた通りあと10倍の笑いが取れる台本だと思う。今回は後からじわじわ来たという妻の言葉通り、観客にストレートに笑いの神が降りてきたわけではなく、一旦脳内で変換されてからその面白さが感じられた。たとえば許されるとすれば台本に忠実に設定情報を持ってくるのではなく、日本の都市に舞台設定を変えるとか。すれ違いの面白さは東京でもニューヨークでも一緒のはず。

次回、同じメンバーで演じた舞台を観る機会があればどう変わっているか。その変化を楽しむのも舞台のよいところだ。落語もそう。一つの噺を口伝で練り上げていくのが落語芸術。喜劇もまた同じに違いない。このように観劇後の劇評に花を咲かせられるのも舞台の良いところ。常に同じい内容が固定の映画とは違い、見るたびに発見があるのも舞台のよいところだ。私も今回の観劇を機会に、映画や演劇の喜劇を観る機会を増やそうと思う。ニール・サイモン作の舞台は他の劇団による公演も含めて観てみたい。もちろん、今回演じた10人の皆様による舞台も。

いずれの役者さんも私にとっては初めてお目にかかる方なのだが、ご一緒に公演後のホールでお写真を撮らせて頂いた佑希梨奈さんは、本作が久々の舞台なのだとか。でも冒頭の右往左往するシーンなど、堂々としていた。他の方も非常にコミカルかつ舞台での存在感を発揮していたように思った。また機会があればどこかの劇場でお目にかかれると思う。私もこういった小劇場の演劇を観られるようにしたいと思っている。

‘2016/9/9 麻布区民センターホール 開演 19:00~

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