私の家にはちょっとしたミニバーを設えている。

並んでいるボトルはほとんどがウイスキーだ。だが、ウイスキー以外にもリキュール、ラム、ジン、焼酎(米・芋・麦・黒糖)、ウォッカ、ブランデー、アクアビット、ピンガ、アラックなどをそろえている。かつてはカルヴァドスやミードも棚に並んでいた。

だが、一度も並んだことのない蒸留酒があった。それがテキーラ。どうも苦手意識を持っていたのだ。その状態が改まったのは2年ほど前。仕事で西荻窪に数度訪れる機会があり、「Bar Frida」さんに伺った。テキーラ専門のバーという珍しさにふらっと寄らせていただき、テキーラの量に圧倒された。私がそれまで知っていたテキーラのブランドと言えば、SAUZAやJose Quervoくらい。だが「Bar Frida」さんのバックバーには私の知らないテキーラがずらりと並んでいた。メニューにも詳細に各銘柄の味や特徴が記されており、私のような初心者にも頼みやすかった。

その時はバーテンダーさんが常連さんとの会話に入ってしまい、あまり喋る事ができなかった。私もあまり長居しなかったのでどういった銘柄を頼んだのかは覚えていない。だが、テキーラがバラエティにあふれ、おいしい事だけは私の知識として刻み付けられた。それは同時に、私の長年のテキーラへの苦手意識を払拭してくれた。ただそれ以来、いくつものBarに訪れているが、どうしてもウイスキーに目が行き、頼んでしまう。そしてテキーラを飲む機会はなかなか訪れなかった。

そんなところに図書館で本書を見つけた。装丁には気合が入っている。中身もほぼカラー。意気込みが感じられる。著者はメキシカンの方。長年日本で仕事をし、今はテキーラを日本に紹介・輸入する仕事をしているそうだ。

私は本書で初めてテキーラを体系的に知った。多分、私のような方は多いのではないか。テキーラについてはあまり知らないという方が。そんな方のために、本書は冒頭からテキーラに関する誤解を解きにかかる。例えば。テキーラはサボテンでできている。テキーラには虫が入っている。テキーラは強い酒で二日酔いする、などなど。

実は私も誤解していた。テキーラの原料がリュウゼツランであることは知っていたが、なんとなくそれはサボテンの一種だと思っていた。でも全く違う種だ。テキーラに虫がはいっていることもそう。一部のテキーラには虫が入っていると思っていたが、正確には「一部のメスカルには虫を衛生的に処理して入れている」が正しい。メスカルはリュウゼツランを使ったメキシコの蒸留酒だが、特定産地で育った特定種のリュウゼツランをテキーラ村周辺で蒸留したメスカルがテキーラと呼ばれるのだ。そして虫を入れたテキーラはない。虫を入れたメスカルはあるが。そしてテキーラはメキシコ政府や業界団体によって品質管理や統制をきっちり行っており、メスカルとテキーラには一線が引かれている。また強い酒で二日酔いするとは、幻覚症状が出るとの誤解もあったようだ。実際は他の蒸留酒と同じぐらいの度数。他の蒸留酒では二日酔いしてもテキーラは平気な方がいるらしい。もっともそれは体質にもよるのだろうが。

本書は製法や産地、特徴など網羅してテキーラを紹介している。特定種のリュウゼツランであるブルーアガベと水のみを使った製品がプレミアムテキーラと呼ばれるとか。ラムのようにさとうきびの糖蜜を原料に混ぜることもあり、そちらはミクストテキーラと呼ぶようだ。そして本書はプレミアムテキーラを特に紹介している。写真と解説付きで図版で紹介しているが、読んでいるだけで楽しくなる。ウイスキーやラムにも同様にカラーを駆使した図説をちりばめた図鑑のような本がある。本書もそれらの本と同じように精細に楽しくテキーラを紹介している。それらの図面はとてもおいしそうで、読みながら飲みたくてたまらなくなったほどだ。他にもカクテルレシピやテキーラに合う料理など、全てがカラー図版で占められている。とてもぜいたくな一冊だと思う。

本書は全ての蒸溜酒愛好者にオススメの一冊だ。私はこれを読んだ後、テキーラを衝動的に飲みたくてたまらなくなり、スーパーの酒売り場に足を運んでしまった程だ。そこにプレミアムテキーラが見つからなかったので、翌日には酒の専門店に行きLUNAZULのレポサドを購入してしまった。LUNAZULは我が家のミニバーに収まった初めてのテキーラ。それぐらい本書に載っているテキーラはおいしそうなのだ。

さらに本稿をアップする数カ月前、たまたま見ていたテレビの「クレイジージャーニー」で日本人で唯一、本場のテキーラ蒸留所でテキレロ(テキーラ職人)として働いている景田哲夫氏のことを知った。カスカウィン蒸留所で働く氏の、フロンティア精神に溢れた旅を見ていると、またまたテキーラに惹かれてしまったのだ。LUNAZULもそろそろ空きそうなので、次はカスカウィンを購入したいと思っている。

‘2017/04/20-2017/04/20


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